リネンの机に置かれた脚本の原稿と鉛筆、クリップ

脚本の書き方の基本は、柱(シーンの場所と時間)、ト書き(人物の動きや様子)、セリフ(人物名と言葉)の3つの要素で、画面に映るものと聞こえるものだけを書くことです。手順としては、企画を1行にまとめ、ログラインで試し、構成を決め、箱書きでシーンを並べてから本文を一気に書き、最後に何度かに分けて推敲します。

大事なのは、速さよりも順番です。書きかけのまま止まってしまう脚本の多くは、何の話で、どこで終わるのかが決まらないうちにシーンを書き始めています。このページでは、初めて脚本を書く人に向けて、物語のいちばん小さな形から大きな形へと進む手順を、短い例を交えて説明します。どの段階の決定も、決めたときなら安く直せます。

脚本(シナリオ)とは

脚本は、映画やドラマ、舞台をつくるために、俳優やスタッフが読む設計図です。小説と違って、登場人物の心の中を地の文で説明することはできません。観客が見て聞けることだけで物語を伝えるのが、脚本のいちばんの特徴です。行動、映像、言葉ですべてを見せる、その制約こそが脚本の技術そのものです。

「脚本」と「シナリオ」はほぼ同じ意味で使われます。舞台の脚本は「台本」や「戯曲」と呼ばれることもありますが、書き方の考え方は共通しています。くわしくはシナリオとはをご覧ください。

脚本の書き方の基本ルール(柱・ト書き・セリフ)

要素役割書き方の例
柱シーンの場所と時間を示す見出し○喫茶店・店内(夜)
ト書き人物の動き、表情、場所の様子美咲、カップを置いて窓の外を見る。
セリフ人物が話す言葉美咲「もう閉店ですよ」

柱は行の頭に○を付け、場所、時間帯の順に書きます。同じ建物の別の場所に移るときは「○同・厨房」のように「同」を使うことがあります。場所か時間が変わったら、新しい柱を立てます。

ト書きは、柱やセリフより数文字下げて書きます(原稿用紙では3字下げがよく使われます)。カメラに映ることだけを、短く現在形で書きます。「美咲は悲しい」ではなく「美咲、目を伏せる」のように、動きで気持ちを見せるのがコツです。

セリフは人物名のすぐあとに「」で書きます。セリフの最後には「。」を付けないのが一般的で、2行にわたるときは2行目の頭を1字下げます。

覚えておきたい記号と決まりごと

  • 人物表:本文の前に、登場人物の名前、年齢、ひとことの説明を並べます。
  • (M):声に出さない心の声(モノローグ)。例:美咲(M)「……言えなかった」
  • (N):ナレーション。
  • × × ×:同じ場所のまま、時間が少し飛ぶときに入れます。
  • 回想:柱に「(回想)」と添えるなどして、過去の場面だと示します。

ハリウッド形式の英語の脚本では、柱を「INT. DINER - NIGHT」のように大文字で書き、セリフは人物名の下に中央寄せで組むなど、見た目が大きく違います。ハリウッド形式のルールは脚本の書式ガイドにまとめています。

脚本の書き方の7つの手順

  1. 1行で言える企画を見つける:人物、目標、障害、失敗したらどうなるか。
  2. ログラインを書き、その企画をまだ知らない人に聞かせて試す。
  3. 構成を決める:始まり、中盤、終わりで物語を曲げる転換点を決める。
  4. 箱書きでシーンを並べる:1シーン1行(1枠)で書き出す。
  5. 初稿を一気に書く:書きながら直さない。
  6. 何回かに分けて推敲する:構成、シーン、セリフ、仕上げの順に。
  7. 書式を整え、表紙を付けて、きれいなPDFに書き出す。

1. シーンからではなく企画から始める

企画の芯(プレミス)は、物語が起きずにはいられない状況のことです。「定食屋の女主人が、死んだはずの親友が生きているかもしれないと知る」は企画になりますが、「雨の夜の定食屋」は舞台設定にすぎません。シーンを書く前に、誰の話か、その人が行動せずにいられないほど何を求めているか、何がそれを阻むのかを決めます。雰囲気や世界観しか言えないうちは、書き始めずに企画を育ててください。

2. ログラインで試す

ログラインは、企画を1〜2文に縮め、相手に「読んでみたい」と思わせる文です。早めに書くことが診断になります。主人公の目標や中心の対立を言えないなら、本文も同じところで迷子になります。型とオリジナルの例はログラインのガイドにあります。

3. 構成を決める(プロット)

物語の向きを変える転換点を決めます。物語を始める出来事、主人公が引き受ける決断、ミッドポイントの逆転、どん底、クライマックスです。三幕構成、15ビートシート、ヒーローズ・ジャーニー、日本でなじみ深い起承転結は、同じ骨組みに別の名前を付けたものと考えてかまいません。どれか1つを、決まりではなくチェックリストとして選んでください。始まりから結末までを文章で書く方法はプロットの書き方で説明しています。

4. 箱書きでシーンを並べる

箱書きは、プロットをシーンに分け、1シーン1枠で「場所・時間・出る人・何が変わるか」を書いたものです。長編映画ならシーンはたいてい40〜60ほどになります。上から順に読み、何も変わらないシーンを探してください。書く前に削るか、ほかのシーンとまとめる候補です。箱書きのくわしい作り方はビートシートと箱書きをご覧ください。

5. 初稿は一気に書く

初稿は、直すために存在します。頭から順に最後まで書き切り、前のページを直したくなってもこらえてください。シーンにはできるだけ遅く入り、そのシーンの変化が起きたらすぐに出ます。ト書きは3〜4行までの短い段落で、現在形で、カメラが撮れることだけを書きます。

人物
 佐伯美咲(28) 喫茶店「灯」の店員
 森健太(30) 常連客

○喫茶店「灯」・店内(夜)
   閉店間際。客は健太だけ。ドアの札はもう「CLOSED」。
   美咲、カウンターを拭きながら時計を見る。
美咲「もう閉店ですよ」
健太「あと5分だけ。返事を待ってるんで」
   健太のスマホが震える。画面を見て、健太が固まる。
美咲「……だめでした?」
健太「いや……受かってた」
   美咲、布巾を置く。
   ドアまで歩き、札を「OPEN」に裏返す。
美咲「じゃあ、もう少し開けときます」

気持ちを説明する言葉はひとつもありませんが、健太が固まる様子と、美咲が札を裏返す動きで、2人の関係が伝わります。心の中を書かずに行動で見せることが、脚本の書き方の基本です。

6. 何回かに分けて推敲する

脚本が良くなるのは推敲の段階です。1回で全部を直そうとせず、目的をしぼって何回かに分けるのがうまくいくコツです。くわしいやり方は、このあとの「脚本の推敲のしかた」で説明します。

7. 書式を整えて書き出す

読み手は、決まった書式で書かれた原稿を期待していて、そこから外れるとすぐに気づきます。脚本ソフトを使えば、字下げや改ページを手で整える必要はありません。表紙にタイトル、名前、連絡先を書き、読み手にはPDFを、共同作業の相手には編集できるファイルを渡します。

脚本の書き出し方

脚本は、できるだけ問題の近くから書き始めます。最初のページで、これが誰の物語で、その人の世界の何がおかしいのかをにおわせてください。読み手は、読み続けるかどうかをすぐに決めます。説明なしで状況のまっただ中から始めるのも1つの方法です。当サイトのシナリオ・ミュージアムにあるLast Callはこの始め方で、半ページのうちに、誰が何を求めていて、なぜそれが今夜はかなわないのかが分かります。

脚本の終わらせ方

脚本は、第一幕が投げかけた問いに答えて終わらせます。クライマックスでは、主人公が「今の自分」を証明する選択を迫られ、ラストシーンは冒頭の場面と響き合うか、その反対になるのが理想です。中心の問いに決着がついたあとに場面を足しすぎないでください。物語が終わった瞬間、観客の気持ちも劇場を出ていきます。

短い作品から学ぶ

脚本を読むことは、書式とリズムを身につけるいちばんの近道です。シナリオ・ミュージアムには、1ページのオリジナル脚本が6本あり、それぞれが1つの技法を軸にしています。いきなり始める冒頭、説明せずに見せること、電話のカットバック、セリフのサブテキスト、映像とずれるボイスオーバー、1つの場所での圧力です。どれも自分のプロジェクトとして開き、分解してみることができます。

幕ごとの書き方

多くの初稿は、決まった場所でつまずきます。各幕が何をすべきかを、書く前に知っておくと役に立ちます。

第一幕(起):早く問題にたどり着く

第一幕では、主人公をその人らしさが分かる瞬間に登場させ、物語のきっかけで暮らしをくずし、簡単には手放せない目標を引き受けたところで終わります。長編ならおよそ最初の4分の1です。よくある失敗は設定が長すぎることで、12ページ(ペラ24枚)を過ぎても何も起きていないなら、セリフを削るのではなくシーンごと削ってください。

第二幕(承・転):高めて、曲げる

第二幕は脚本の半分を占め、多くの原稿が止まってしまう場所です。目標をより難しくする出来事、主人公の求めるものや進み方を変えるミッドポイント、幕の終わり近くのどん底、という形を持たせてください。どのシークエンスも、状況が悪くなるか変わるかして終わるべきで、ただ長くなるだけではいけません。

第三幕(結):選ばせる

第三幕は短く、決定的です。主人公は物語から学んだものを使い、いちばん強い形の敵対する力と向き合い、脚本全体が問い続けてきた選択をします。まず本筋に決着をつけ、すぐあとにサブプロットを閉じます。クライマックスのあとは、1〜2シーンあれば十分なことがほとんどです。

脚本の推敲のしかた

初稿を数日寝かせてから、何も直さずに一気に読み、余白にメモだけを書きます。通して読むと、1ページずつ直しているときには見えないテンポの問題が見えてきます。

  1. 構成の推敲:各幕が曲がるべきところで曲がっているか、結末は冒頭の問いに答えているか。ここではシーンを丸ごと動かし、まとめ、削ります。
  2. 人物の推敲:主な人物を1人ずつ追って読みます。出てくるすべてのシーンで何かを求めているか、主人公は変わっているか。
  3. シーンの推敲:遅く入って早く出る。そのシーンで何が変わるかを問い、何も変わらないシーンは削る候補にします。
  4. セリフの推敲:声に出して読み、人物ごとに話し方を変え、見れば分かることを説明しているセリフを削ります。練習法はセリフの書き方にあります。
  5. 仕上げ:ト書きを引きしめ、書式と誤字を直し、枚数が目標の長さに収まっているか確かめます。

1回の推敲で問うのは1つだけにしてください。構成とセリフを同時に直そうとすると、たいていどちらも直りません。推敲の前に新しい版を保存しておけば、稿を見比べたり、削ったシーンを戻したりできます。日本の現場では、撮影に向けて準備稿、決定稿と稿を重ねていくので、版を分けて残す習慣は早いうちに身につけておくと役に立ちます。

映画・ドラマ・舞台で脚本の書き方はどう違うか

種類特徴書くときのポイント
映画映像で見せる。場所や時間の移動が自由セリフを減らし、絵で伝わる場面を増やす
テレビドラマ放送枠に合わせた尺。連続ものは話数で区切る各話の終わりに、次の話が見たくなる山場を置く
舞台場所の移動が限られ、俳優の生の演技が中心場で区切り、出入りや舞台上の配置をト書きで書く

長さの目安として、400字詰め原稿用紙1枚(ペラ2枚)でおよそ1分といわれます。60分前後の作品なら60枚前後が目安ですが、コンクールでは応募要項の枚数指定が優先です。連続ドラマの書き方はドラマ脚本の書き方で説明しています。

脚本初心者がつまずくポイント

  • 心の中をト書きで説明してしまう。「美咲は彼が好きだ」ではなく、目線や手の動き、小道具で見せます。
  • セリフで全部説明してしまう。人は本音をそのまま口にしないものです。言わないことで伝わる余白を残します。
  • 1つのシーンが長すぎる。そのシーンの目的を果たしたら、すぐ次へ移ります。
  • 登場人物が多すぎる。短編なら、主な人物を3人前後に絞ると書きやすくなります。人物づくりにはキャラクター設定の項目表が役に立ちます。
  • カメラの指示を書き込みすぎる。カット割りは監督の仕事です。見せ方を細かく決めるのは絵コンテの段階です。

表紙とコンクールに出すときの書式

シナリオコンクールの多くは、応募要項で書式と枚数を指定しています。よく見かけるのは、400字詰め原稿用紙(20字×20行)に換算した枚数の上限、縦書き、表紙や人物表、あらすじ(シノプシス)を付けるといった条件です。表紙には、タイトル、名前、連絡先を分かりやすく書きます。決まりは賞ごとに違うので、必ず最新の応募要項を確かめてください。

なお、Scenaloomは原稿用紙の形式(20字×20行)や縦書きでの出力には対応していません。また、アジア形式ではセリフが「名前:セリフ」の1行で組まれるなど、日本で伝統的な書式(○の柱、名前「セリフ」)とは見た目が異なります。コンクール用の原稿は、Word(.docx)やテキストで書き出してから、応募要項の書式に整えてください。

脚本ソフトで書く(Scenaloom)

Scenaloomは、ブラウザで使える脚本・シナリオ作成ソフトです。入力に合わせて、シーン見出し、ト書き、人物名、セリフの書式が整います。日本語・中国語・韓国語向けのアジア形式では、シーンに番号が付き、そのシーンの登場人物を並べた行が入り、柱は場所と時間帯が先に来ます。

ビートボード、アウトライン、シーンボードは同じ原稿から読み込まれるので、本文を直すと構成にも反映されます。シーンボードでは箱書きのようにシーンを並べ替えながら構成を組め、バージョン履歴から以前の稿に戻せるので、推敲も安心です。Scenaloom AIは選んだ範囲について提案するだけで、適用するまで原稿は変わりません。無料プランで書き始める(カード登録は不要です)。

よくある質問

脚本とシナリオの違いは何ですか?

ほぼ同じ意味で、どちらを使っても間違いではありません。映画やドラマでは両方の言い方が使われ、舞台では「台本」や「戯曲」と呼ぶことも多いですが、書き方の基本は共通です。

初心者は何から書きはじめればいいですか?

まずは5〜10分ほどの短いシナリオを、1本最後まで書き切ることから始めましょう。登場人物を2〜3人、場所を1〜2か所に絞ると、書き方のルールに集中できます。書く前に、企画を1行のログラインにまとめておくと迷いにくくなります。

1時間のドラマの脚本は何枚くらいですか?

400字詰め原稿用紙で60枚前後が目安とよくいわれます。ただし、CMを除いた実際の放送時間や、コンクールの枚数指定によって変わるので、応募要項の指定を優先してください。

脚本を1本書くのにどのくらいかかりますか?

決まりはありませんが、プロットと初稿に数週間から数か月、推敲にそれ以上かける書き手が多くいます。締め切りよりも毎日の目標が効きます。1日にペラ5枚ずつ書けば、2時間の映画の初稿はおよそ2か月で書き上がります。推敲には初稿と同じか、それ以上の時間がかかるのがふつうです。

脚本はWordで書いてもいいですか?

はい、Wordでも書けます。応募先の書式(20字×20行など)に合わせやすいのが利点です。書式を気にせず書き進めたいときは、脚本ソフトで書いてから書き出す方法もあります。

書く前にプロットは作るべきですか?

多くのプロの脚本家はプロットや箱書きを作ります。シーンの一覧は、本文よりずっと早く直せるからです。1シーン1行に大きな転換点の印を付けただけのゆるい箱書きでも、何週間も書く前に、中盤が持つかどうかが分かります。書きながら物語を見つけ、あとで初稿から箱書きを起こして推敲する書き手もいます。