リネンの机に置かれた脚本の原稿と鉛筆、クリップ

箱書き(ハコ書き)とは、脚本を書く前に、物語をシーンや大きな転換点ごとの「箱」に分け、順番に並べた設計図のことです。1つの箱に、場所と時間、登場人物、そこで何が起き、何が変わるのかを短く書きます。英語圏で使われるビートシートは、そのうち物語の向きが変わる転換点(ビート)だけを抜き出し、脚本のおおよそのページに置いたもので、箱書きの骨組みにあたります。

日本の脚本づくりは、企画、プロット、箱書き、本文(初稿)の順に進むのが一般的です。ビートシートはログラインとプロットのあいだにあり、1文よりは長く、シーンの一覧よりはずっと短い、物語の形が成り立っているかを確かめるいちばん手早い方法です。書き手は箱書きやビートシートを、初稿の計画に、たるんだ原稿の診断に、そして数分で企画を説明するために使います。

箱書きの書き方

箱書きに決まった書式はありません。紙のカード、ノートの枠、表計算ソフトのセルなど、並べ替えやすい形なら何でもかまいません。大切なのは、1つの箱に1つのシーン(または1つのまとまり)を入れることです。

  1. 先にログラインとプロットを用意する:何の話で、どう終わるのかが決まっていないと、箱は並びません。ログラインのガイドとプロットの書き方も参考にしてください。
  2. 大きな転換点を先に置く:物語のきっかけ、第一幕の終わり、ミッドポイント、どん底、クライマックス。これがビートシートにあたる部分です。
  3. そのあいだをシーンの箱で埋める:各箱に「柱(場所・時間)」「出る人物」「起きること」「シーンの終わりに変わること」を1〜3行で書きます。
  4. 上から読んで、何も変わらない箱を探す:その箱は削るか、前後の箱とまとめる候補です。
  5. 尺を確かめる:箱ごとにペラ(200字詰め原稿用紙)の枚数の見込みを書いておくと、全体が目標の長さに収まるかが分かります。

箱書きの例

港町の24時間営業の定食屋を舞台にした、オリジナルの長編企画の箱書き(冒頭の一部)です。

【箱1】○定食屋「しの」・店内(深夜)
 志乃(45)、ひとりで店を回す。常連にも深入りさせない。
 → 志乃が誰とも距離を置いて生きていると分かる。

【箱2】○同・店内(明け方)
 見知らぬ青年・潤(22)が来店。6年前に死んだ志乃の幼なじみの息子だと名乗り、
 父から託されたという現金入りの紙袋を差し出す。
 → きっかけ。死んだはずの男から、なぜ今?

【箱3】○同・裏口(明け方)
 店の外に車のライト。志乃、警察を呼ばずに潤を厨房の奥に隠す。
 → 第一幕の終わり。志乃はもう無関係ではいられない。

箱の矢印(→)の行に「そのシーンで何が変わるか」を書いておくと、推敲のときに削るべき箱がすぐに見つかります。

脚本でいう「ビート」とは

脚本でいうビートとは、物語の中の1つの変化、つまりそのあとでは元に戻れなくなる決断、発見、逆転のことです。この言葉は2つの大きさで使われます。ビートシートでは、物語のきっかけやミッドポイントのような大きな転換を指します。シーンの中では、人物の作戦が小さく切り替わる瞬間を指し、英語の脚本に「(beat)」とあれば短い間を表します。日本の脚本でいえば、ト書きの「間。」に近い使い方です。

ビートシートの型1:三幕構成

三幕構成は、物語を設定、対立、解決に分け、およそ4分の1、2分の1、4分の1の割合で組み立てます。3つの型の中でいちばん古く、いちばんゆるやかな型で、ほかのビートシートの多くはこれを細かく分けたものです。

  • 第一幕(最初の約25%):主人公のいつもの暮らし、それをくずすきっかけ、行動しようという決断。主人公が引き受け、簡単には引き返せなくなったところで終わります。
  • 第二幕(約25%〜75%):高まる障害、賭け金を上げるか目標を変えるミッドポイント、そしてどん底へ向かう下り坂。
  • 第三幕(最後の約25%):主人公は学んだことを使ってクライマックスに向き合い、物語は新しい日常に落ち着きます。

110ページの長編なら、第一幕の終わりは27ページ付近、ミッドポイントは55ページ付近、第三幕の始まりは82ページ付近です。締め切りではなく目印として扱ってください。数ページずれている名作もたくさんあります。くわしくは三幕構成のガイドをご覧ください。

ビートシートの型2:15ビートシート(SAVE THE CATの法則)

15ビートシートは、三幕を15の名前つきの瞬間に分けたものです。いちばん知られているのは、ブレイク・スナイダーの2005年の著書『Save the Cat!』(邦訳『SAVE THE CATの法則』)の版で、そのため「セーブ・ザ・キャットのビートシート」とも呼ばれます。本人の説明はぜひ本で読んでいただくとして、ここでは形を当サイトの言葉でまとめます。

  1. オープニングイメージ:何かが変わる前の、主人公の世界と問題を見せる絵。
  2. テーマの提示:多くの場合、主人公がまだ受け止められない、誰かのひとこと。
  3. セットアップ:主人公の暮らし、欠点、欠けているもの。
  4. 触媒(約10%):主人公の暮らしのバランスをくずす出来事。
  5. 迷い:主人公が呼びかけに抵抗したり、疑ったりする時間。
  6. 第二幕への突入(約20〜25%):主人公が新しい状況に入ることを選ぶ。
  7. サブプロット:テーマを運ぶ、もう1つの物語。人間関係であることが多い。
  8. お楽しみ:ログラインが約束したものを、物語がたっぷり見せる区間。
  9. ミッドポイント(50%):賭け金を上げる、見せかけの勝利か見せかけの敗北。
  10. 迫りくる悪い奴ら:主人公の計画がほころび、外からも内からも圧力が高まる。
  11. すべてを失って(約75%):大切な何かを失うどん底。
  12. 心の暗闇:その喪失への主人公の反応。新しい考えが生まれる前の、いちばん暗い区間。
  13. 第三幕への突入:メインの物語とサブプロットが合わさって、解決の道が見える。
  14. フィナーレ:主人公が学んだことを実行する。
  15. ファイナルイメージ:オープニングと対になり、どれだけ変わったかを見せる絵。

この型の強みは具体性で、どんな出来事をどこに置くべきかを教えてくれます。弱みも同じ具体性で、文字どおりに従いすぎると、キットを組み立てたような物語になってしまいます。

ビートシートのテンプレートとページの目安

各ビートのふつうの位置を、全体に対する割合と、110ページ・90ページの脚本でのページで示します。日本のペラで書く場合は、ページ数を2倍するとペラの枚数のおおよその目安になります。位置は決まりではなく慣例です。ずれているビートを見つけるために使い、シーンを無理にそのページに押しこまないでください。

ビート割合110ページでは90ページでは
オープニングイメージ0%11
テーマの提示5%65
セットアップ6%75
触媒10%119
迷い12%1311
第二幕への突入20%2218
サブプロット22%2420
お楽しみ27%3024
ミッドポイント50%5545
迫りくる悪い奴ら55%6150
すべてを失って68%7561
心の暗闇70%7763
第三幕への突入77%8569
フィナーレ80%8872
ファイナルイメージ99%10989

ビートシート・テンプレート(PDF)三幕構成、15ビートシート、ヒーローズ・ジャーニーの3つの表。ページの目安と、自分の物語を書き込む欄つき(表記は英語)

ビートシート・テンプレート(CSV)同じ3つの型を、Googleスプレッドシート、Excel、Numbersで使える形式で(表記は英語)

ビートシート・テンプレート(PDF)の1ページ目のプレビュー

SAVE THE CATの法則の10のジャンル

スナイダーの本は、映画を舞台設定ではなく物語の原動力によって10の型に分けています。英語の名前を当サイトなりに言い換えると、家に潜む怪物(Monster in the House)、宝探しの旅(Golden Fleece)、魔法が解き放たれる話(Out of the Bottle)、難題に巻き込まれた普通の人(Dude with a Problem)、人生の通過儀礼(Rites of Passage)、相棒との愛(Buddy Love)、なぜやったのか(Whydunit)、愚か者の勝利(Fool Triumphant)、組織の中で(Institutionalized)、スーパーヒーロー(Superhero)です。この一覧の目的は比較にあります。自分がどの型の物語を書いているか分かれば、同じ型の作品が同じビートをどう処理したかを研究できます。

ビートシートの型3:ヒーローズ・ジャーニー

ヒーローズ・ジャーニーは、旅立ち、試練、帰還のパターンで、ジョーゼフ・キャンベルが世界中の神話をもとに『千の顔をもつ英雄』(1949年)で示しました。のちにクリストファー・ボグラーが『The Writer's Journey』で脚本家向けに12段階にまとめています。日常の世界、冒険への誘い、誘いの拒絶、賢者との出会い、第一関門の突破、試練・仲間・敵、最も危険な場所への接近、最大の試練、報酬、帰路、復活、宝を持っての帰還です。

ヒーローズ・ジャーニーは、冒険、ファンタジー、成長物語のように、人物が実際に、あるいは象徴的に家を離れる物語に向いています。日本のアニメやRPGにもこの形の物語は多く見られます。一方で、群像劇や、主人公が変わらない物語にはなじみにくい型です。

三幕・15ビート・ヒーローズ・ジャーニーの使い分け

  • 三幕構成:いちばん軽い枠組みが欲しいとき。企画の初期、短編、すでに感覚でつかめている物語に。
  • 15ビートシート:中盤がたるむとき、娯楽作の長編でページごとのテンポを確かめたいときに。
  • ヒーローズ・ジャーニー:旅を通じた変身の物語で、賢者、関門、試練といった役割が世界づくりの助けになるときに。

3つは競い合うものではありません。多くの書き手は、まず三幕で大まかに組み、もっと細かい型で第二幕を埋めます。日本の書き手なら、起承転結で全体の流れをつかんでから、ビートシートで山場の位置を確かめる、という組み合わせもよく使われます。

ビートシートの書き方

  1. まずログラインを書く。書けないなら、ビートシートがその穴をあらわにします。
  2. 中盤より先に結末を決める。クライマックスが分かれば主人公が何を学ぶべきかが分かり、それがミッドポイントで何を仕込むべきかを教えてくれます。
  3. 幕の切れ目とミッドポイントを埋め、次にきっかけとどん底を埋める。
  4. 各ビートは、気分ではなく結果を伴う出来事として書く(「志乃が金を受け取る。だから彼女はもう共犯だ」)。
  5. 位置を目標の長さと照らし合わせ、ふつうの位置から大きくずれたビートを動かす。
  6. 各ビートを、そこへ至るのに必要なシーンに広げる。その一覧が箱書きになります。

ビートシートの例

上の箱書きの例の続きを、三幕のビートシートにまとめるとこうなります。

  • オープニング:志乃は24時間営業の定食屋を切り盛りし、客にも自分にも、誰にも心を許しません。
  • きっかけ:潤が、6年前に死んだはずの父から託されたという金の入った紙袋を持って現れます。
  • 第一幕の終わり:外に車のライト。志乃は警察を呼ばずに潤をかくまい、もう当事者になります。
  • ミッドポイント:潤の父が死を偽装していたこと、そしてそれを知る者がほかにもいることが分かります。
  • どん底:金を追う者たちに、志乃が何よりも手放したくなかった店を奪われます。
  • クライマックス:志乃は、昔の幼なじみについて自分だけが知っていることを使い、金と引きかえに潤を自由にします。
  • ラスト:店がふたたび開きます。志乃は湯のみを2つ出し、誰かと向かい合って座ります。

シナリオ・ミュージアムのLast Callも、深夜の食堂に金の入った袋が持ち込まれる冒頭から始まる短い脚本です。読み比べると、1つの状況からビートをどう広げるかの参考になります。

Scenaloomで箱書きとビートシートを作る

Scenaloomのビートボードは「三幕構成」「15ビートシート」「ヒーローズ・ジャーニー」から始められ、各ビートが目標の長さ(初期設定は110ページ)に対するふつうの割合の位置に置かれます。ストーリーマップでは目標を超えたページが分かり、シーンボードではシーンをカードとして並べ替えられるので、箱書きのように構成を組めます。ビートとアウトラインは原稿と一緒にエクスポートできます。くわしくはアウトラインとビートのドキュメントを読むか、プロジェクトを始めてみてください。

自分の脚本の長さで各ビートが何ページ目に来るかを知りたいときは、無料のビートシート計算ツールを使ってください。

よくある質問

箱書きとプロットの違いは何ですか?

プロットは、始まりから結末までの物語の流れを文章で書いたものです。箱書きは、それをシーンごとの箱に分け、場所、人物、起きることを並べたもので、脚本本文の直前の設計図にあたります。一般的には、プロットで流れを決めてから箱書きでシーンに割り、本文を書きます。

SAVE THE CATのビートシートとは何ですか?

ブレイク・スナイダーが2005年の脚本術の本『Save the Cat!』(邦訳『SAVE THE CATの法則』)で広めた、15のビートからなる物語のテンプレートです。オープニングイメージからファイナルイメージまで、長編を15の転換点に分け、それぞれをおおよそのページに置きます。テンポの計画や、原稿の中盤がどこで失速しているかを見つけるのに使われます。

ビートシートにはいくつのビートがありますか?

選ぶ型によって違います。三幕構成の場合は主な転換点を5〜8つほど挙げることが多く、よく使われる15ビートシートは15、ヒーローズ・ジャーニーはボグラーの版で12段階です。正しい数はありません。それぞれのビートが物語の向きを変えているかどうかが大切です。

箱書きはシーンをいくつに分ければいいですか?

長編映画ならシーンはたいてい40〜60ほど、1時間ドラマなら30〜50ほどになることが多いです。数よりも、どの箱でも何かが変わっているかを確かめてください。何も変わらない箱は、削るかほかの箱とまとめる候補です。

ミッドポイントは脚本のどこに置けばいいですか?

脚本のほぼ真ん中、110ページの長編なら55ページあたりです。賭け金を上げるか、主人公の求めるものを変える転換で、見せかけの勝利か見せかけの敗北になることが多くあります。ミッドポイントがずっと後ろにずれると、第二幕の前半が方向を失いがちです。