リネンの机に置かれた脚本の原稿と鉛筆、クリップ

セリフの書き方でいちばん大切なのは、ひとつひとつの台詞に役目を持たせることです。人物の性格を見せる、対立を進める、観客に必要な情報を運ぶ。このうち二つ以上を同時にこなす台詞が、よいセリフです。そして人物には、気持ちを口で説明させず、欲しいものを手に入れようとする会話の中でにじませます。

脚本の読み手が最初に良し悪しを判断するのは、たいていセリフです。耳で聞ける部分だからです。このページでは、口調の作り分け、サブテキスト、説明ゼリフの避け方、間とリズムといった書き方の技術を例文で示し、後半で日本の脚本でのセリフの表記(人物名と「」、(M)や(N)、(OFF)など)を説明します。

よいセリフとは

画面のセリフは、自然に聞こえるのに、実際の会話よりずっと短く、遠回しで、無駄がありません。録音した会話を文字に起こすと、相づちや言い直しばかりで、ドラマとしては読めないはずです。セリフは「本当らしく聞こえるように作った会話」だと考えてください。

  • 人物が見える。言葉の選び方、話す速さ、何を避けて話すかで、その人がどんな人かが伝わります。
  • 対立がある。仲のよい会話にも、小さな綱引きがあります。どちらが払うか、どちらが先に謝るか、誰が話を変えるか。
  • 物語が進む。やりとりの前と後で、決断、関係、知っていることのどれかが変わっています。
  • 短い。ほとんどのセリフは1〜3行に収まります。長ゼリフが必要な場面もありますが、その長さに見合う理由が要ります。

人物ごとに口調を作り分ける

日本語は、一人称、語尾、敬語、方言で話し手の違いがはっきり出る言語です。「俺」「僕」「私」「うち」のどれを使うか、「〜だよ」「〜っす」「〜でございます」のどれで終わるかだけで、年齢や立場や距離感まで伝わります。簡単な確かめ方として、人物名を手で隠してページを読んでみてください。誰が話しているか分からなければ、口調が似すぎています。

  1. 口調の元を決める。年齢、出身地、職業、学歴、そのときの気分。同じ事故の話でも、看護師と弁護士では言い方が違います。
  2. 話し方の癖をひとつ持たせる。質問に質問で返す、語尾を濁す、専門用語で正確に言う、冗談ではぐらかす、などです。
  3. 文の長さに差をつける。単語だけで話す人と、主語から述語まで丁寧に話す人を並べると、それだけで違いが出ます。
  4. 立場の差を見せる。力のある人は口数が少なく、相手の話をよく遮ります。立場の弱い人は前置きが長く、言い訳を足しがちです。
  5. 方言は語彙と語尾で示す。全国の視聴者が読めるよう、すべてを方言にするより、決め手になる言い回しを選んで使います。

同じ質問に二人が答える例です。人物名がなくても、どちらが話しているかは分かるはずです。

○ 救急病院・廊下(夜)

  長椅子に座る千尋(28)。処置室から
  医師の高木(50)が出てくる。

千尋「あの、父は……」
高木「落ち着いています。詳しいことは明日の朝に」
千尋「落ち着いてるって、大丈夫ってことですか? それとも、ドラマでお医者さんが言う、あの『落ち着いてる』ですか?」

高木の答えは短く、正確で、言い慣れています。千尋の答えは長く、不安で、冗談に逃げようとしています。ト書きで説明する前に、二人がどんな人で、この状況をどう受け止めているかがセリフだけで伝わります。

言わないことで伝える:サブテキスト

サブテキストとは、言葉の下にある本当の意味、つまり人物が本当に望んでいることや感じていることのうち、口に出さない部分です。人は自分の感情をそのまま文にして話すことはめったにありません。気持ちをそのまま言う人物は、作り物に聞こえます。

日本のドラマでは、向田邦子さんや山田太一さんの作品が、何気ない会話の裏で家族の本音がぶつかる書き方の手本としてよく挙げられます。私たちの1ページ脚本The Interviewでも、面接の二人はビーズクッションや5年後の目標の話をしながら、本当は会社に給料を払う力があるのかを探り合っています。

まず、気持ちをそのまま言わせた例です。

○ マンション・台所(夜)

和也「結婚記念日を忘れられて、腹が立ってる」
朋美「ごめん。仕事が忙しすぎて、忘れてた」

次に、同じ対立を、ありふれた行動の下に沈めた例です。

○ マンション・台所(夜)

  和也、手をつけていない二人分の皿を、
  生ごみの袋に空けている。

朋美「……作ったんだ」
和也「火曜日だからね。火曜日も人は食べる」

  朋美、テーブルの小さなケーキの箱に気づく。

朋美「和也、あの」
和也「いいよ。どうせ味付け、濃すぎたし」

二つ目の例では、記念日という言葉は一度も出てきません。それでも観客には、和也が傷ついていること、それをうまく隠せていないこと、朋美に気づいてほしくて最後の機会を与えていることまで伝わります。

説明ゼリフを避ける

説明ゼリフとは、観客に事情を知らせるためだけに、人物がお互いに知っていることを話してしまう台詞です。「知ってのとおり、親父が死んでもう10年だ」のような台詞が典型です。観客に必要な背景(誰が誰か、過去に何があったか、仕組みはどうなっているか)は、次の方法で自然に渡せます。

  • 対立の中で出す。人は口論になると、事実を武器にして相手にぶつけます。そのとき情報は自然に出てきます。
  • 事情を知らない人を置く。新入社員、子ども、よそから来た人がいると、ほかの人物に説明する理由が生まれます。
  • あとに回す。観客にまず「なぜだろう」と思わせると、答えが出たときに注意深く聞いてくれます。
  • 見せて済ませる。写真立て、古い傷跡、封を切っていない督促状の束は、3行の説明より多くを語ります。
  • 分かることは削る。観客は、すき間を自分で埋めるのが得意です。

間とリズム:遮る、言いよどむ、黙る

自然に聞こえる会話にはリズムがあります。人は相手の話を遮り、言葉を濁し、同時にしゃべり、ときどき黙り込みます。日本の脚本では、言いよどみや途切れは「……」で表し、相手に遮られる台詞は途中で終えて、次の台詞の頭に(遮って)と添えるのが分かりやすい書き方です。

○ 国道・走る車の中(夜)

奈々「最後まで聞いてくれたら、私だって」
浩二「(遮って)もう三回、最後まで聞いた」
奈々「だから、言おうとしてたのは……」

  奈々、言わない。
  ワイパーの音だけが続く。

「奈々、言わない。」のようにト書きで書いた沈黙や、「間」の一語は、場面でいちばん強い瞬間になることがよくあります。使いすぎると効き目が薄れるので、ここぞという場面に取っておきましょう。

脚本でのセリフの書き方(表記のルール)

日本の脚本では、セリフは人物名のすぐ後に「」で書きます。200字詰め原稿用紙(ペラ)の書式では、柱を「○」で始め、ト書きを3字下げ、セリフは行頭から人物名、その後ろに「」という形が基本です。

書き方意味例
人物名「セリフ」画面に映っている人物の台詞千尋「父は……」
人物名(声)画面に映っていない人物の声。電話の相手など母の声「ごはんは?」
人物名(OFF)同じ場所にいるが画面の外にいる人物の声浩二(OFF)「開けるぞ」
人物名(M)モノローグ。声に出さない心の声奈々(M)「言えるわけない」
(N)ナレーション。物語の外からの語りN「その夏、町に雨は降らなかった」
( )内の指示言い方や動作の短い指示和也「(笑って)いいよ」

セリフの中の( )指示は、そう読まないと誤解される場合だけに使います。感情を細かく指定しすぎると、役者の仕事を奪うことになります。二人が同時に話す場面は、二人の名前を並べて「(同時に)」と添えるか、ト書きで「二人、同時に答える」と書くのが一般的です。

同じ車の中の場面を、ハリウッド形式で書くと次のようになります。人物名がセリフの上に置かれ、画面の外の声には(O.S.)が付きます。

.国道・走る車の中 - 夜

@奈々
最後まで聞いてくれたら、私だって

@浩二
(遮って)
もう三回、最後まで聞いた。

!奈々、言わない。ワイパーの音だけが続く。

@ラジオの声 (O.S.)
今夜は、県内全域で雨の予報です。

会話文の書き方:脚本と小説の違い

小説の会話文も「」で書きますが、脚本とは決まりが違います。小説では話し手の名前を「」の前に書かず、地の文や口調で誰の発言かを示します。また、気持ちや動作を地の文で補えるので、脚本より長い会話も成り立ちます。脚本では、観客に見えて聞こえるものしか書けません。心の中は(M)で書くこともできますが、多用すると映像の力が弱くなります。小説の表記の決まりは小説の書き方で紹介しています。

セリフでよくある失敗

  • 気持ちやテーマをそのまま言ってしまう。「私、本当は寂しかったの」と言わせる前に、言わずに伝える方法を探します。
  • 毎回、相手の名前を呼ぶ。実際の会話では、名前を呼ぶのは呼びかけるときくらいです。
  • 全員が作者と同じ話し方をする。同じユーモア、同じ語彙、同じ語尾になっていないか確かめます。
  • あいさつや世間話から始めて、どこにも行かない。会話には途中から入りましょう。シーンの書き方も参考にしてください。
  • 方言や訛りを音のとおりに綴りすぎる。読みにくくなるので、言い回しとリズムで匂わせる程度にします。
  • 「えーと」「あのー」を入れすぎる。自然さを出すつもりが、ただ読みにくい台詞になります。

声に出して確かめる

書いたセリフは、必ず声に出して読みましょう。息が続かない台詞、舌がもつれる言い回し、二人の口調が同じになっている箇所がすぐに分かります。できれば友人に役を割り振って本読みをすると、自分では気づかない不自然さが見えてきます。日本の脚本ではペラ1枚がおよそ1分の目安とされますが、セリフの多い場面ほど実際の尺はずれやすいので、ストップウォッチで測っておくと安心です。

Scenaloomでセリフを書く

Scenaloomの脚本エディターには、日本語の脚本に向いたアジア形式があります。シーンに番号が付き、各シーンの頭に登場人物の行が入り、セリフは人物名と同じ行に続けて書く形です。ハリウッド形式に切り替えると、人物名と中央の段、(MORE)と(CONT'D)が自動で入るページ送り、デュアルダイアログも使えます。

台詞が説明的すぎると感じたら、ScenaloomのAIの「サブテキスト」や「キャラクターの口調で」のツールに、言い換えの案を出してもらえます。案は提案として表示されるだけで、適用するかどうかは毎回あなたが決めます。使い方はAIの執筆ツールをご覧ください。無料で書きはじめる

よくある質問

自然なセリフを書くにはどうすればいいですか?

まず、実際の人の話し方をよく聞くことです。人は言葉を途中で切り、言い直し、話をはぐらかします。その感じを残しながら、相づちや言い直しなどの無駄を削ると、自然に聞こえるのに読みやすいセリフになります。人物ごとに語彙と語尾を変え、大事な気持ちは言わせないでおくのがコツです。最後に声に出して読むと、作り物っぽい台詞がすぐに分かります。

脚本でセリフはどう書きますか?

日本の脚本では、人物名のすぐ後に「」でセリフを書きます。画面に映らない声は(声)や(OFF)、心の声は(M)、ナレーションは(N)と添えます。ハリウッド形式では人物名を大文字で中央寄りに置き、その下にセリフを書くので、提出先の形式に合わせてください。

説明ゼリフとは何ですか?どう直せばいいですか?

説明ゼリフとは、観客に事情を伝えるためだけに、人物がお互いに知っていることを話してしまう台詞です。口論の中で事実をぶつけ合わせる、事情を知らない人物を置く、写真や小道具で見せる、といった方法に置き換えると自然になります。観客が推測できる情報は思い切って削りましょう。

サブテキストとは何ですか?

サブテキストとは、台詞の下にある本当の意味のことです。皿洗いのことで言い合っている夫婦が、本当はどちらかが家を出ていくかどうかを争っている、というような状態です。言葉と本音がずれていると、観客は自分で意味を読み取ろうとして、場面に引き込まれます。

セリフ1つの長さはどのくらいがいいですか?

多くのセリフは1〜3行に収まり、ひと言だけのものもたくさんあります。告白や最終弁論のように長ゼリフが必要な場面もありますが、どの台詞も4行を超えるようなら、削るか、相手とのやりとりに分けることを考えてください。

方言のセリフはどう書けばいいですか?

方言は、決め手になる言い回しや語尾を選んで使うと伝わります。すべてを方言で書くと、読み手や役者が意味を取りにくくなることがあります。実際に撮影するときは、方言指導の人や地元の人に台詞を確認してもらうと安心です。