ノートと付箋、灯りのともったデスクライト。アイデア出しの机

映画の企画書とは、脚本を書く前、または脚本と一緒に、作品の物語と魅力をプロデューサーや出資者に伝えるための書類です。タイトルとログライン、企画意図、登場人物、そして物語を始まりから結末まで散文で語る部分で構成されます。この物語の部分を、英語圏ではトリートメント(treatment)と呼びます。

企画書は、企画を売り込むとき、脚本の執筆を依頼されるとき、助成金や映画祭の企画コンペに応募するときに求められます。自分のためにも役立ちます。100ページの脚本に取りかかる前に、物語が最後まで持つかどうかを数ページで確かめられるからです。

トリートメントとは:企画書の中の「物語」

トリートメントは、ログラインと脚本の中間にある書類です。あらすじより長く、生き生きと書き、脚本より短く、細部を省きます。物語の全体を幕やシークエンスごとに散文で語り、観客がこの映画をどう体験するかを伝えます。ほとんどセリフのない短編小説のように読めるのが理想です。

言葉の使われ方は人によってさまざまです。2ページの文書をトリートメントと呼ぶプロデューサーもいれば、20ページ以上でセリフも少し入ったものを期待する人もいます。日本の現場では、同じ役割の書類を「企画書」「プロット」「ストーリー」と呼ぶことも多いので、頼まれたときは、何ページくらいで、何に使うのかを最初に確認しましょう。ドキュメンタリーの企画書では、筋の代わりに、題材、取材先との関係、撮り方、映像のスタイルを書きます。

企画書・あらすじ・プロット・脚本の違い

書類長さの目安読む人中身
ログライン1文誰でも主人公、目的、障害を一行で
あらすじ(シノプシス)原稿用紙1〜3枚ほど審査員、編集者、プロデューサー筋の要約と結末
企画書(トリートメント)数ページから十数ページプロデューサー、出資者人物、主要な場面、トーン、結末を散文で
プロット・箱書き自由書き手と共作者場面の並びと因果。作業用のメモ
脚本2時間の映画でペラ120枚前後(ハリウッド形式なら約120ページ)スタッフ、キャスト柱・ト書き・セリフで全場面

あらすじの書き方はシノプシスの解説、プロットと箱書きはプロットの書き方で詳しく紹介しています。

映画の企画書に入れる項目

  1. タイトルとログライン。仮題と、物語を一文で言い表したログラインを冒頭に置きます。書き方はログラインの解説を参考にしてください。
  2. 企画意図。なぜ今この映画なのか、観客に何を持ち帰ってほしいのかを数行で書きます。日本の企画書ではとくに重視される項目です。
  3. 主な登場人物。主要な2〜4人について、何者で、何を求め、何が欠けているかを1段落ずつ。
  4. 舞台とトーン。いつ、どこの話で、どんな手触りの映画かを一、二文で。講義のように長く書く必要はありません。
  5. 物語(トリートメント)。企画書の中心です。幕ごとに現在形の散文で語り、物語が変わる場面には紙幅を割きます。
  6. 結末。必ず書きます。結末を伏せた企画書は、読み手が評価できません。
  7. 必要に応じて、想定する尺と規模、ターゲット、参考作品。参考作品は「誰に届く映画か」を伝えるために挙げ、似ていることを売りにしないようにします。

提出先から書式を指定されている場合は、必ずそれに従ってください。助成金の申請では、書き手がこの作品を撮るべき理由や、制作の体制を書く欄が設けられていることもよくあります。

【映画企画書】

タイトル(仮):
ログライン(1文):
想定尺・ジャンル:

■ 企画意図
(なぜ今この映画か。観客に残したいもの。3〜5行)

■ 主な登場人物
・名前(年齢):何者か/何を求めているか/弱さ
・
・

■ 舞台とトーン
(時代、場所、映画の手触り。1〜2文)

■ ストーリー
第一幕:
第二幕:
第三幕:

■ 結末
(最後に何が起き、主人公はどう変わるか)

企画書の長さの目安

長編映画の企画書は、物語の部分だけでA4で2〜15ページほどが一般的で、実務では数ページから10ページ前後に収まることが多いです。短いものは企画そのものを売り込むため、長いもの(ときに30ページ以上)は、脚本を発注する前に物語を固めておきたいときに書かれます。

決まった長さはありません。物語の全体をトーンごと伝えられる、いちばん短い長さが正解です。短編映画なら1〜2ページで十分です。

トリートメントの書き方

ログラインとビートシートができてから書きはじめ、三人称・現在形の散文で語ります。物語を変える場面にいちばん多くの字数を使い、観客が見るもの、聞くものを描きます。

  1. 先に構成を固める。きっかけ、幕の切れ目、中盤の転換、クライマックスを決めておきます。ビートシートが出発点になります。
  2. 現在形で書く。「晴美は舫いを解く」であって、「解いた」ではありません。脚本のト書きと同じ約束です。
  3. 目に見えるように書く。人物が心の中で何を思ったかより、カメラに映るもの、マイクが拾う音を書きます。
  4. 大事な場面を描き込む。転換点ごとに1段落を使い、そのあいだのつなぎは一文でまとめます。
  5. セリフは控えめに。一、二行で人物の声を伝えるのはよいのですが、企画書は脚本ではありません。
  6. 映画のトーンを文章で運ぶ。ホラーの企画書は読んでいて不安になるように、コメディの企画書は思わず笑ってしまうように書きます。
  7. 主要人物は初めて出てくるときに、年齢か特徴を添えて紹介します。

企画書(トリートメント)の例

このページのために書き下ろした短いトリートメントです。12〜15分ほどの短編映画を想定しています。

最終便

ログライン:二十年間一度も欠航させたことのない島の渡船の船長が、切符も持たずに「夜明けまでに向こう岸へ渡りたい」と言う若い女に、決まりを破るかどうかを迫られる。

瀬戸内の小さな島。宮田晴美(50代)は二十年、本土へ渡る夜の最終便の舵を握ってきた。几帳面で、誇り高く、ひとりきりだ。航海日誌が話し相手のようなものだ。今夜は濃い霧で、港の事務所から全便欠航の連絡が入る。

晴美が船を舫っていると、桟橋を女が走ってくる。早川沙耶(20代)。結婚式の参列者のようなワンピースに、泥だらけのスニーカー。切符もなく、理由も言わず、ただ夜明けまでに向こう岸へ着かなければならないと言う。晴美は断る。沙耶は桟橋に座り込み、動かない。

一時間のにらみ合いのあいだに、二人は本当のことの周りを少しずつ話す。晴美は、沙耶の弟が夜明けに向こう岸で式を挙げること、そして沙耶が二年前、母の葬儀の途中で出ていったきり弟と口をきいていないことを知る。沙耶は、晴美が一度だけ便を出さなかった夜があること、それが自分の妹にいちばん必要とされた夜だったことを知る。

晴美は舫いを解く。霧の中の航海は遅く、何も見えない。無線から港の警告が繰り返し流れ、晴美はスイッチを切る。半分まで来たところで、エンジンが止まる。静けさの中、向こう岸から鐘の音が聞こえる。晴美と沙耶は非常用の櫂で、最後の距離を漕ぐ。

夜が明ける。沙耶は桟橋に飛び移り、鐘の鳴るほうへ走っていく。晴美は舵の前に残り、航海日誌を開く。そして二十年で初めて、何も書かずに閉じる。

この例は、物語の全体を短い字数で語り、人物を行動で見せ、転換点ごとに1段落を使い、説明ではなく映像で終えています。企画書として提出するなら、これに企画意図と人物紹介を足します。

企画書でよくある失敗

  • 物語ではなく宣伝文を書く。「感動の」「衝撃の」といった形容詞を並べても、出来事がなければ評価できません。
  • 人物の過去を細かく書くのに、それが物語に一度も関わらない。
  • カメラの指示を書く。何が見えるかを書き、どう撮るかは書きません。
  • セリフが多すぎる。企画書が脚本になりかけているなら、脚本を書く段階です。脚本の書き方へ進みましょう。
  • 結末を書かない。「その結末は、劇場で」は宣伝文の書き方で、企画書では逆効果です。

Scenaloomで企画書を書く

Scenaloomでは、プロジェクトごとのアウトラインがリッチテキストなので、企画書の物語部分を、のちに脚本になるビートボードやシーンボードの隣で書けます。ログラインや人物のメモは「世界観」(ストーリーバイブル)にまとめておけば、ScenaloomのAIに相談するときにその内容を読んだうえで答えてくれます。アウトラインとビートシートは、脚本と一緒にエクスポートできます。詳しくはアウトラインとビートをご覧ください。無料でプロジェクトを始める

よくある質問

映画の企画書には何を書けばいいですか?

タイトル、ログライン、企画意図、主な登場人物、舞台とトーン、物語の流れ、結末が基本です。必要に応じて想定する尺や規模、ターゲット、参考作品を加えます。提出先に書式があれば、それに従ってください。

トリートメントとは何ですか?

トリートメントは、映画の物語の全体を、現在形の散文で始まりから結末まで語った文書です。あらすじより長く、脚本より短く、主要な場面、人物、トーン、結末を数ページで伝えます。日本では企画書の中の「ストーリー」や「プロット」と呼ばれる部分にあたります。

企画書は何ページくらいにすればいいですか?

長編映画なら、物語の部分でA4の2〜15ページほどが目安で、数ページから10ページ前後に収まることが多いです。短編映画なら1〜2ページで十分です。指定の枚数があれば、それを必ず守ってください。

企画書にセリフは入れますか?

ほとんど入れません。物語は描写の文章で語り、人物の声や決定的な瞬間を伝えたいところに一、二行だけ使います。セリフが増えてきたら、脚本を書きはじめる合図です。

あらすじと企画書(トリートメント)の違いは何ですか?

あらすじは筋と結末を短くまとめたもので、原稿用紙数枚ほどです。トリートメントはそれより長く、場面ごとに生き生きと語り、出来事だけでなくトーンや人物も伝えます。どちらも結末まで書きます。

企画書の書き方は映画とドラマで違いますか?

基本の項目は同じですが、連続ドラマの企画書では、1話ごとの流れと、シーズン全体でどこへ向かうかを書きます。映画の企画書は1本の物語を結末まで語ることが中心です。どちらも、提出先に書式があればそれに従います。

トリートメントと脚本はどう違いますか?

トリートメントは物語を散文で語った数ページの文書で、セリフはほとんど入りません。脚本は柱・ト書き・セリフの書式ですべての場面を書いたもので、撮影の台本になります。トリートメントで物語を固めてから脚本に進むのが一般的な順番です。

脚本を書く前に企画書は必要ですか?

必ずしも必要ではありません。プロットや箱書きから直接脚本に入る書き手も多くいます。依頼されたとき、助成金や承認が執筆の前に必要なとき、物語が最後まで持つか確かめたいときに書くと役立ちます。