
ストーリーサークルとは、脚本家・プロデューサーのダン・ハーモンが考えた、8つのステップでできた物語の構成法です。居心地のいい場所にいる人物が何かを欲しがり、なじみのない状況に入り、そこに適応し、欲しかったものを手に入れ、その重い代償を払い、元の場所へ戻り、変わった姿で帰ってくる。1シーンから連続ドラマの1シーズンまで、どんな長さにも使えるように作られた、ヒーローズ・ジャーニーの簡略版です。
ハーモンはこれを、脚本チームの打ち合わせ(ライターズルーム)で手早く話を組み立てる方法として考えました。線ではなく円で描かれるため、「戻ってくること」に重きが置かれます。人物は出発点に戻りますが、もう同じ人ではありません。翌週にはだいたい元どおりの世界が必要になる、1話完結型の連続ドラマにとくに向いている理由です。
ストーリーサークルの8つのステップ
ストーリーサークルは、時計の文字盤のような円に短い言葉を8つ並べ、いちばん上から時計回りに読むのが一般的です。各ステップを当サイトの言葉で、その役割とともに説明します。
- あなた(You):居心地のいい場所にいる人物。その人が誰で、どんな日常に暮らしているかを示します。
- 欲求(Need):何かを欲しがる。望みや欠けているものが、居心地のよさを乱します。
- 出発(Go):なじみのない状況に入る。新しい場所、仕事、人間関係、問題です。
- 探索(Search):そこに適応する。ルールを覚え、仲間を集め、抵抗にあい、試しては失敗します。
- 発見(Find):欲しかったものを手に入れる。円のいちばん下で、ミッドポイントの勝利になることがよくあります。
- 代償(Take):その重い代償を払う。手に入れることは、思っていたより高くつきます。
- 帰還(Return):なじみのある状況へ戻る。実際に戻る場合も、気持ちのうえで戻る場合もあります。
- 変化(Change):変わっている。人物自身も、いつもの世界の見え方も、前とは違います。
ストーリーサークルのしくみ
ストーリーサークルは、人物を未知の世界へ下ろし、ふたたび上へ戻すことで働きます。円は横線で上下に分かれ、上半分がなじみのある世界、下半分がなじみのない世界です。人物はステップ3で線を越えて下り、ステップ7で上へ戻ります。線より下はすべて冒険、線より上はすべて「うち」です。
ステップ5は円の真下、ステップ1のちょうど反対側にあり、人物がもとの自分からいちばん遠く離れる地点です。向かい合うステップどうしも対になっています。ステップ2の欲求にはステップ6の代償が答え、ステップ1の居心地のよさはステップ8の変化に映し出されます。対を並べて読むと、結末が始まりにきちんと答えているかをすばやく確かめられます。
ストーリーサークルとヒーローズ・ジャーニーの違い
ストーリーサークルは、ヒーローズ・ジャーニーを簡単にしたものです。ジョーゼフ・キャンベルは神話の冒険を17の段階で説明し、クリストファー・ボグラーが脚本家向けに12段階にまとめました。ハーモンは、そのパターンを、コメディのサブプロットにも使えるほど一般的な8つのステップに縮めました。
| 比べる点 | ヒーローズ・ジャーニー | ストーリーサークル |
|---|---|---|
| 段階の数 | ボグラー版で12、キャンベル版で17 | 8 |
| 向いている規模 | 壮大な冒険もの | 5分のBストーリーから長編まで |
| 重きを置くところ | 試練と英雄の帰還 | ステップ6の代償と、うちへの帰還 |
三幕構成にも重ねられます。ステップ1と2が第一幕、ステップ3〜6が第二幕(ステップ5がミッドポイント付近)、ステップ7と8が第三幕です。
連続ドラマの1話でストーリーサークルを使う
ドラマの1話では、筋ごとに小さなストーリーサークルを回せます。メインのAストーリー、サブのBストーリー、Cストーリーが、ほぼ同じタイミングで曲がるようにするのです。30分のコメディなら1ステップに2〜3分、1時間ドラマならCMで区切られた1ブロックに1〜2ステップが目安です。
- 筋ごとに分けて組む:Aストーリーの8ステップを1行ずつ書き、次にBストーリーの8ステップを書きます。
- 境界をそろえる:各ストーリーのステップ3を最初の幕の終わり近くに、ステップ7を最後の幕の近くに置きます。
- テーマでつなぐ:Bストーリーのステップ6の代償が、Aストーリーのステップ2の欲求を照らし返すことがよくあります。
- だいたい元に戻す:ステップ8で世界を翌週のために元に近い状態に戻しつつ、小さな変化だけを次へ持ち越します。
シーズン全体で大きな円を描き、その中に各話の小さな円を入れ子にすることもよくあります。シリーズの第1話の書き方は、連続ドラマの脚本の書き方をご覧ください。
ストーリーサークルの例
30分コメディの1話のAストーリーを、ストーリーサークルで組んだオリジナルの例です。
- あなた:市立図書館の小さな分館を任されている司書の森下は、几帳面な性格で、市内でいちばん静かな図書館を誇りにしています。
- 欲求:月末までに利用者数を倍にしなければ、分館は統廃合されることになります。
- 出発:森下は、中高生のゲームサークルが放課後に閲覧室を使うことを、しぶしぶ受け入れます。
- 探索:20人の中高生を静かにさせようとして失敗し、守ってもらえるルールを作るために、いやいやゲームを覚えます。
- 発見:サークルは大人気になり、利用者数は1週間を残して目標を超えます。
- 代償:閲覧室はめちゃくちゃになり、毎朝ここで新聞を読んでいたただ1人の常連のおじいさんが来なくなります。
- 帰還:森下はサークルを打ち切り、静けさを取り戻しますが、部屋はどこかがらんとして感じられます。
- 変化:森下は1つの条件つきでサークルを再開します。週に1度、中高生たちが常連のおじいさんと静かな時間を過ごすこと。そのおじいさんは、実は元アマチュア将棋の名人でした。
ステップ6の代償があるから、この回はただのギャグで終わりません。森下は数字を手に入れ、大切にしていたものを失いかけます。結末は、欲求と喪失の両方に答えています。脚本では、ミッドポイントの「発見」を1つの絵で見せることもできます。
○市立図書館・分館・閲覧室(夕) トーナメント表を囲んで、中高生20人が騒いでいる。 森下(40代)、椅子の上に立ち、ハンドベルを鳴らす。 森下「ここは図書館です。図書館の声でお願いします」 中学生「これ、図書館の声ですけど」 森下、入口の来館者カウンターに目をやる。「212」。 森下、ゆっくりとベルを下ろす。
ストーリーサークルでよくある失敗
- 代償を飛ばす:ステップ6がないと、物語は願いがかなっただけの話になり、ステップ8の変化が安っぽく感じられます。
- 欲求がぼんやりしている:「幸せになりたい」ではステップ3〜5を動かせません。「1日あと20人の利用者が必要」なら動かせます。
- 公式として扱う:円は診断の道具です。足りないステップを見つけるために使い、すべての物語を同じ形に押しこむために使わないでください。ほかの型との比較は物語の構成のガイドにまとめています。
起承転結との組み合わせ
日本の書き手にとってなじみ深い起承転結と並べると、ストーリーサークルの特徴がよく分かります。起承転結は「転」の意外な角度と「結」の気づきで締めますが、ストーリーサークルは「代償」と「帰還」で締めます。1話の流れを起承転結で組み、各パートの中で人物が何を得て何を払うのかをサークルで点検する、という使い方もできます。
Scenaloomでストーリーサークルを使う
Scenaloomにはストーリーサークルのテンプレートはありません。ビートボードは「三幕構成」「15ビートシート」「ヒーローズ・ジャーニー」から始められるので、ストーリーサークルの8つのビートはビートボードに手で追加してください。シリーズでは、エピソードごとにアウトラインがあるので、各話にそれぞれの円を持たせられます。くわしくはアウトラインとビートを読むか、プロジェクトを始めてみてください。
よくある質問
ストーリーサークルの8つのステップは何ですか?
居心地のいい場所にいる人物が、何かを欲しがり、なじみのない状況に入り、そこに適応し、欲しかったものを手に入れ、その重い代償を払い、なじみのある状況へ戻り、変わった姿で帰ってくる、という8つです。英語では You、Need、Go、Search、Find、Take、Return、Change と短く呼ばれます。
ストーリーサークルを考えたのは誰ですか?
アメリカのテレビコメディ『コミュニティ』や、アニメ『リック・アンド・モーティ』を手がけた脚本家・プロデューサーのダン・ハーモンです。話を手早く組み立てるための、ヒーローズ・ジャーニーの簡略版として考え、エッセイやインタビューで紹介してきました。「ハーモンのストーリー・エンブリオ」と呼ばれることもあります。
ストーリーサークルとヒーローズ・ジャーニーは同じものですか?
まったく同じではありません。キャンベルのパターンは17段階、ボグラーの脚本家向けの版は12段階ですが、ハーモンの円は8ステップに縮めたものです。旅立ち、試練、帰還、変化という核の動きはそのままに、コメディのサブプロットにも使えるほど一般的な形になっています。
長編映画にもストーリーサークルは使えますか?
使えます。どんな長さにも使える型で、長編ではステップ1と2が第一幕、ステップ3〜6が第二幕(ミッドポイントはステップ5付近)、ステップ7と8が第三幕にあたります。サブプロットごとに小さな円を回すこともできます。
ドラマの1話でストーリーサークルをどう使えばいいですか?
筋ごとに8つのステップを1行ずつ書き、未知の世界への出入りが幕の切れ目の近くに来るようにそろえます。Bストーリーの代償がAストーリーの欲求を照らし返すようにし、ステップ8で次の話のために世界を元に近い状態へ戻します。