リネンの机に置かれた脚本の原稿と鉛筆、クリップ

ト書きとは、脚本や台本のなかで、セリフ以外の部分、つまり人物の動きや表情、場所の様子、聞こえる音などを書いた文のことです。柱やセリフより3字ほど下げて書き、カメラに映るものと聞こえるものだけを、短く現在形で書きます。名前の由来は、歌舞伎の台本で動きの指示を「ト、立ち上がる」のように「ト」で書き始めていたことにあります。

このページでは、ト書きの書き方の基本と、セリフの頭に添える括弧書き(言い方や相手の指示)の使い方を説明します。どちらも、書きすぎると脚本が読みにくくなるという点で共通しています。ページ全体の書式は脚本の書き方のルールにまとめています。

ト書きに書くこと、書かないこと

ト書きに書けるのは、観客が見て聞けることだけです。小説の地の文と違って、人物の心の中や過去の事情は書けません。

書くこと書かないこと
人物の動き、表情、しぐさ人物の気持ちの説明(悲しい、うれしい)
場所の様子、天気、時間の感じ映らない過去の事情や設定
小道具、画面に映る文字細かいカメラの指示
聞こえる音(雨音、電話の着信)書き手の感想やコメント
△ 理沙は、別れた恋人のことを思い出して悲しくなった。
○ 理沙、引き出しから古い写真を出す。しばらく見つめて、伏せる。

気持ちを書くかわりに、気持ちが表れる動きを書く。これがト書きの書き方のいちばんの基本です。

ト書きの書き方の基本

  • 柱やセリフより3字下げて書きます(原稿用紙の場合)。
  • 現在形で書きます。「歩いた」ではなく「歩く」。
  • 主語は人物名で、「理沙、窓を開ける。」のように読点でつなぐ書き方がよく使われます。
  • 1つのト書きは2〜3行まで。絵が変わるところで改行し、行を分けます。
  • 人物が初めて出るときは、フルネームと年齢を書きます(中村蓮(17))。
  • 大事な小道具や音は、読み落とされないように一文を独立させます。
○港町図書館・閲覧室(夕)
   窓の外で、漁船のエンジン音。
   吉田理沙(31)、返却本を棚に戻している。
   扉が勢いよく開く。
   中村蓮(17)、息を切らして立っている。手には濡れた地図。

セリフに添える括弧書き

セリフの言い方や、誰に向けた言葉なのかを示したいときは、セリフの頭に括弧で短く添えます。これを括弧書きと呼びます。英語の脚本の「パレンセティカル」にあたるもので、ト書きの一種と考えてかまいません。

  • セリフの「」の中、言葉の前に( )で書きます。例:理沙「(小声で)もう閉館よ」
  • 数文字で終わる長さにします。一行を超えるなら、それはト書きに出すべき動きです。
  • セリフの途中で相手が変わるときは、その位置に入れます。
健二「(店員に)コーヒー二つ。ブラックで。(秀子に)まだブラックだよな」
秀子「ブラックで飲んだことなんてない」

この例では、括弧書きがなければ、前半が店員への言葉で後半が秀子への言葉だとわかりません。こういうときこそ、括弧書きがいちばん役に立ちます。

(間)とは

(間)は、セリフの途中の短い沈黙を示す表記です。人物が言葉を止め、何かが変わり、また話しはじめる。そのひと呼吸を表します。英語の脚本の(beat)にあたります。

秀子「鍵は引き出しに入れたの。自分で入れた。(間)引き出しのこと、ほかに誰が知ってた?」

ここでの(間)は、秀子が誰かを疑いはじめる瞬間です。読む人が「なぜ止まったのか」を感じ取れるとき、(間)は生きてきます。沈黙がセリフより大事なら、「秀子、引き出しを見る。それから健二を見る。」のようにト書きで見せたほうが、俳優にも読む人にも絵が浮かびます。

括弧書きが役に立つ4つの場面

誰に向けた言葉か

三人以上がいる場面では、(蓮に)(電話に)のように相手を示すと迷いがなくなります。もっとも異論の出にくい使い方です。

言葉と本心が逆のとき

言葉の意味と本当の気持ちが逆になる場面では、ひとことの指示が誤読を防ぎます。ただし、文脈で伝わるなら書く必要はありません。

セリフと一緒の小さな動き

(指輪をポケットにしまいながら)(顔も上げずに)のように、言葉とぴったり重なる小さな動きに使います。動きが大きかったり、ほかの人物が反応したりするなら、ト書きに出します。

言語、声の大きさ、話し方

(英語で)(ささやいて)(読み上げて)のように、紙の上の言葉だけでは伝わらないことを示します。シーン全体が別の言語なら、ト書きで一度書けば十分です。心の声は(M)、ナレーションは(N)、画面の外の声は(声)と、人物名のあとに書くのが日本の慣例です。

感情だけの指示は読み飛ばされる

(悲しそうに)(怒って)のように、気持ちの名前だけを書いた括弧書きは、俳優に「どう感じるか」を命じるだけで、その理由を与えません。怒りのセリフに(怒って)と書いても何も足されず、怒っていないセリフに書いても怒りにはなりません。どのセリフにも指示が付いた脚本は、書き手が場面を信じていない印に見えてしまいます。直すときは、セリフかト書きのほうを変えます。

(直す前)
浩二「(不安そうに)検査の結果、だけど」
浩二「(悲しそうに)よくなかったんだろ?」

(直したあと)
   浩二、封筒の折り目を指でのばす。開けない。
浩二「検査の結果、だけど。(間)もう読んだんだろ」

開けようとしない封筒が不安を見せ、問いかけではなく言い切りにした最後のセリフが、言われなくても恐れを伝えます。残した(間)は、浩二が気づく瞬間を示しているから意味があります。

ト書きと括弧書きでよくある失敗

  • ト書きが5行も6行も続く。読む人は塊を飛ばして読みます。
  • 「〜と思う」「〜らしい」など、映らないことをト書きに書く。
  • 「カメラ、ゆっくり寄る」のような撮り方の指示を書き込む。カット割りは監督の仕事です。
  • すべてのセリフに括弧書きを付ける。指で隠してもセリフが成り立つなら、消してかまいません。
  • セリフを言い終えたあとの動きを括弧書きにする。セリフのあとの動きは、次の行のト書きに書きます。

シナリオ・ミュージアムの「The Interview」は、指示に頼らず言外の意味で進む1ページの場面です。言葉がしっかり働いていれば、セリフにどれほど指示が要らないかがわかります。

ハリウッド形式のパレンセティカル

英語の脚本では、括弧書きは人物名とセリフのあいだに独立した一行として置かれ、小文字で、末尾に句点を付けずに書きます((quietly)など)。ページの左端から約3.1インチの位置から始まり、セリフより狭い幅で組まれます。セリフの最後に置くことはありません。考え方は日本の括弧書きと同じです。

Scenaloomで書く

Scenaloomの脚本エディターでは、ト書きと括弧書きはそれぞれ独立した要素です。セリフの空の行で「(」を入力すると括弧書きに変わり、Enterでセリフへ進みます。空の行でTabを押すと、セリフと括弧書きを切り替えられるので、字下げを手で合わせる必要はありません。PDFの書き出しも同じレイアウトです。無料で脚本を書きはじめる

よくある質問

ト書きとは何ですか?

脚本や台本のなかで、セリフ以外の部分のことです。人物の動きや表情、場所の様子、聞こえる音などを、柱やセリフより下げて書きます。歌舞伎の台本で動きの指示を「ト」で書き始めていたことが名前の由来です。

ト書きはどう書けばいいですか?

画面に映るものと聞こえる音だけを、短く現在形で書きます。「悲しい」と気持ちを説明するかわりに、「写真を伏せる」のように気持ちが表れる動きを書くのが基本です。1つのト書きは2〜3行までにし、絵が変わるところで改行します。

ト書きに心情を書いてはいけないのですか?

映像の脚本では、映らないものは観客に伝わらないので、心の中を説明する書き方は避けます。どうしても必要なときは、表情や動き、小道具、セリフの言い方で見せる方法を探しましょう。舞台の戯曲では、もう少し自由に書かれることもあります。

脚本の(間)とはどういう意味ですか?

セリフの途中の短い沈黙を示す表記です。人物が言葉を止め、何かに気づいたり気持ちが変わったりしてから話を続ける、そのひと呼吸を表します。沈黙そのものが大事な場面なら、ト書きで動きを書いたほうが伝わります。

セリフの括弧書きはどれくらい使っていいですか?

決まった数はありませんが、1シーンに数か所までにとどめ、指示のないセリフを基本にするのが目安です。誰に向けた言葉か、言葉と本心が逆なときなど、それがないと誤読される場合にだけ使いましょう。