リネンの机に置かれた脚本の原稿と鉛筆、クリップ

回想シーンを脚本に書くときは、ふつうのシーンと同じように柱を立て、柱の最後に(回想)と添えます。回想が何シーンも続くなら、最初に(回想)、最後に(回想終わり)と書いて範囲をはっきりさせます。現在に戻るときは、現在の時間帯の柱を新しく立てれば十分です。

回想、フラッシュ、夢、モンタージュ(点描)、カットバックは、どれも時間や場所を飛び越える技法です。書き手によって表記に多少の違いはありますが、大切なのは、読む人が「いつの、どこの話か」を一度も推測しなくて済むことです。

回想シーンの脚本の書き方

回想の示し方は、主に二通りあります。

  • 柱に添える:「○港町食堂・店内(夜)(回想)」のように、柱の最後に(回想)を付けます。回想が1シーンだけのときに向いています。
  • 範囲で示す:ト書きの位置に(回想)と書いてから必要なだけ柱を立て、最後に(回想終わり)と書きます。何シーンにもわたる回想に向いています。

人物の年齢が違うなら、初登場のト書きで「理沙(11)」のように回想の中の年齢を書きます。観客にも年代を知らせたいときは、スーパー(テロップ)で「二十年前」などと入れます。書き方はテロップの書き方で説明しています。

○港町食堂・店内(夜)(回想)
   若い頃の吉田秀子(35)と、合羽姿の男が、一本の傘を分け合って入口に立っている。
   何か言って、二人で笑う。声は聞こえない。

○港町食堂・店内(夜)
   年老いた秀子(65)、誰もいない入口を見つめている。

回想は、過去を見せることで現在の見え方が変わるときにだけ使います。観客がすでに察していることを説明するだけの回想は、物語を止めてしまいます。過去を短く差し込みたいなら、ナレーションや(M)の声に今の映像を重ねる方法もあります。

フラッシュ(一瞬の回想)

フラッシュは、回想を一瞬に縮めたものです。人物が思い出したくない記憶が、今の場面に割り込んでくるようなときに使います。柱の頭に(フラッシュ)と書き、1〜2行のト書きだけで終えて、すぐ元のシーンに戻ります。

○市民病院・待合室(夜)
   蓮、自販機の前で小銭を数えている。

○(フラッシュ)国道(夜)
   横倒しの自転車。回り続ける後輪。

○元の待合室(夜)
   蓮、小銭を取り落とす。

夢や想像のシーン

夢は回想と同じ形で書き、柱に(夢)と添えるか、(夢)から(夢終わり)までを範囲で示します。人物の頭の中の想像なら(イメージ)とします。観客にも夢だと気づかせずに見せたい作品なら、現実のように書いておき、目覚めた瞬間にはっきりとわかるように書きます。

○入り江(昼)(夢)
   水面が鏡のように凪いでいる。秀子、裸足で水の上を歩いていく。
   桟橋があったはずの場所に、何もない。

○吉田家・寝室(夜)
   秀子、はっと目を覚ます。

モンタージュと点描

モンタージュは、何週間もの練習や、季節の移り変わり、二人の関係が壊れていく過程などを、短い映像の連なりでまとめて見せる技法です。日本の脚本では「○町の点描」のように、柱に「点描」や「モンタージュ」と書き、短い映像を「× × ×」で区切って並べる書き方がよく使われます。

  1. 柱に、何のモンタージュかがわかる言葉を入れます(○秀子のヨット練習(モンタージュ))。
  2. 映像を一つずつ、短いト書きで書きます。間に「× × ×」を入れるか、行頭に「・」を付けて並べます。
  3. 場所や時間帯が変わる映像だけ、そのことをト書きに書き込みます。
  4. 映像は4〜8個ほどに絞ります。長い羅列は読み飛ばされます。
  5. 終わったら新しい柱を立てて、物語の時間に戻ります。
○秀子のヨット練習(モンタージュ)
   小さなヨットが転覆する。秀子、海水を吐きながら顔を出す。

   × × ×

   夜明け。ロープを結ぶ。ほどける。もう一度結ぶ。

   × × ×

   雨。鍋で船底の水をかき出しながら、秀子が笑っている。

   × × ×

   ヨットがまっすぐ湾を横切っていく。
   桟橋で、漁師の健二(40)が腕組みをして見ている。

カットバック(電話の場面など)

カットバックは、二つ以上の場所を交互に見せる書き方で、電話で話す二人の場面が代表的な例です。まずそれぞれの場所に柱を立てて見せ、そのあとに(以下、カットバック)と書けば、セリフのたびに柱を立て直す必要はありません。どこで切り替えるかは編集で決まります。

○吉田家・台所(夜)
   秀子、電話をかける。待つ。

○漁協・事務所(夜)
   健二、海図に肘をついたまま受話器を取る。

   (以下、カットバック)

秀子「ヨットがないの」
健二「今夜は海に出るな」

電話が終わったら、新しい柱を立てて一つの場所に戻ります。片方の声しか聞かせない電話なら、カットバックにせず、相手の声を(声)や(電話)として書きます。シナリオ・ミュージアムの「Two Calls」は、電話のカットバックだけでできた1ページの脚本です。

未来の場面(フラッシュフォワード)

これから起きることを先に見せる場面は、柱に(数年後)(未来)などと添え、回想と同じように現在に戻るところをはっきり書きます。回想もフラッシュフォワードも、一本の脚本で一、二度使うときにいちばん効果があります。時間を何度も行き来する物語には、記号を増やすより、読む人がつかめる構成が必要です。構成の組み方は物語の構成のガイドで説明しています。

ハリウッド形式での書き方

英語の脚本では、回想は見出しに(FLASHBACK)を付けるか、FLASHBACK:とEND FLASHBACKで囲み、現在に戻るときはBACK TO PRESENTと書きます。モンタージュはMONTAGEで始めてEND MONTAGEで閉じ、カットバックはINTERCUTと書きます。夢はBEGIN DREAM SEQUENCEとEND DREAM SEQUENCE、一瞬の回想はFLASH CUT TO:です。考え方は日本の書き方と同じです。

Scenaloomで書く

Scenaloomには回想やモンタージュ専用の要素はありません。脚本の書き方のルールどおり、ふつうの要素で書きます。柱はシーン、映像はト書き、(回想終わり)や(以下、カットバック)はト書きの行に入れます。シーンは脚本から読み取られるので、自分の柱を持つ回想は、シーンボードのカードとシーン一覧の行として独立して表示されます。時間を入れ替えながら構成を練るときに便利です。脚本を書きはじめる

よくある質問

回想シーンは脚本にどう書けばいいですか?

ふつうのシーンと同じように柱を立て、柱の最後に(回想)と添えます。何シーンも続く回想なら、始まりに(回想)、終わりに(回想終わり)と書いて範囲を示します。現在に戻るときは、現在の時間帯で新しい柱を立てます。

回想の終わりはどう書きますか?

(回想終わり)とト書きの位置に書くか、現在の場面の柱を新しく立てます。柱に(回想)を付けただけの短い回想なら、次に現在の柱が来れば十分に伝わります。大切なのは、読む人が今どの時間にいるのか迷わないことです。

フラッシュと回想の違いは何ですか?

回想は過去の出来事を一つのシーンとして見せるもので、フラッシュは記憶の断片を一瞬だけ差し込むものです。フラッシュは1〜2行のト書きで終え、すぐに元のシーンに戻ります。

モンタージュは脚本にどう書きますか?

柱に「点描」や「モンタージュ」と何の場面かを書き、短い映像を「× × ×」で区切りながら4〜8個ほど並べます。終わったら新しい柱を立てて物語の時間に戻ります。

電話の場面はどう書けばいいですか?

両方の場所を見せるなら、それぞれに柱を立ててから(以下、カットバック)と書き、あとはセリフを続けます。片方だけを見せるなら、相手のセリフを(声)や(電話)として書きます。