
世界観の作り方の基本は、物語の舞台で「何が当たり前で、何が許されないか」というルールを先に決め、それを場所、歴史、組織、人物に広げていくことです。決めた設定は、ひとつの資料(英語圏ではストーリーバイブルと呼びます)にまとめ、書きながら参照し、更新していきます。
ファンタジーやSFだけの話ではありません。現代の商店街が舞台の連続ドラマにも、「この町では誰もが互いの家族の事情を知っている」という世界観があります。このページでは、8つの項目で整理する世界観のテンプレートと、オリジナルの連続ドラマで埋めた記入例を紹介します。
世界観とは:ストーリーバイブルの役割
世界観とは、物語の舞台がどんなところで、そこで何が起こりうるかの決まりごとの総体です。それを書き出した資料がストーリーバイブル(設定資料)です。作者の記憶の代わりになり、共作者やスタッフと同じ世界を共有するための道具になります。
連続ドラマやシリーズ、長編小説では、話数が進むほど設定の矛盾が起きやすくなります。第3話で「夜は外出禁止」と決めたのに、第8話で主人公が平気で夜道を歩いている。こうした矛盾は、資料を一冊にまとめておくだけでかなり防げます。
世界観テンプレート(8項目)
次の8つの項目に沿って書いていきます。すべてを埋める必要はありません。物語に関わる項目から順に書きましょう。
1. 前提とトーン
物語を一文で言うとどうなるか(ログライン)、作品の中心にある問い、観客や読者に感じてほしい手触りを書きます。「静かで、少し可笑しくて、最後に泣ける」のように、トーンを形容詞で3つほど挙げておくと、迷ったときの判断基準になります。
2. 世界のルール
この世界で当たり前のこと、できないこと、破ると何が起きるかを書きます。魔法や技術があるなら、その仕組みだけでなく、代償と限界を必ず決めます。何でもできる力は、物語の緊張をなくしてしまいます。
3. 場所
主な舞台を3〜5か所。それぞれの見た目、音、匂い、そこにいる人、その場所でしか起きないことを書きます。地図を描くと、移動にかかる時間や距離の矛盾も防げます。
4. 歴史
物語の始まる前に起きた出来事のうち、いまの登場人物に影響しているものだけを年表にします。100年分の歴史より、人物の傷や対立の原因になった一つの出来事のほうが役に立ちます。
5. 組織と集団
家族、会社、学校、町内会、国家、宗教、ギルドなど、人々が属する集団と、その目的、力関係、対立を書きます。主人公がどの集団に属し、どの集団と衝突するかが、物語の対立になります。
6. 人物
主要人物は1人1枚のキャラクターシートにまとめ、世界観の資料には、人物同士の関係図と、それぞれがこの世界のルールをどう受け止めているかを書きます。
7. 物語の流れ
シリーズ全体を通しての大きな流れと、各話や各章の流れを書きます。誰が、どこで、何を失い、何を手に入れるのか。連続ドラマなら、1シーズンの終わりにどこへ着くかを決めておきます。
8. 用語集と未決事項
作品独自の言葉、地名、呼び名の表記をそろえ、まだ決まっていないことは「未決」として一覧にしておきます。決めていないことを決めていないと書いておくのも、資料の大事な役目です。
【世界観設定シート】 ■ 前提とトーン ログライン: 中心の問い: トーン(形容詞3つ): ■ 世界のルール 当たり前のこと: できないこと: 破ったときに起きること: ■ 場所(3〜5か所) ・名前:見た目/音/そこにいる人 ■ 歴史(人物に影響する出来事だけ) ・○年前: ■ 組織と集団 ・名前:目的/力関係/対立相手 ■ 人物の関係 ■ 物語の流れ(シリーズ/各話) ■ 用語集 ■ 未決事項
世界観設定の記入例
このページのために作った、架空の連続ドラマ(全8話)の世界観を、テンプレートで埋めた例です。
作品:『潮見坂の郵便局』(連続ドラマ・全8話) ■ 前提とトーン ログライン:島の郵便局に左遷された元銀行員が、 届け先のない手紙を配り直すうちに、 島の秘密と自分の過去に向き合う。 中心の問い:言えなかった言葉は、遅れても届くのか。 トーン:静か、少し可笑しい、潮の匂い。 ■ 世界のルール ・島には「宛先のない手紙は灯台の箱に入れる」 という古いしきたりがある。 ・島民はしきたりを口外しない。破った者は 島の祭りに参加できなくなる。 ・現代の話で、魔法はない。不思議に見えることには 必ず人間の理由がある。 ■ 場所 ・潮見坂郵便局:坂の途中。窓から港が見える。 壁の時計は5分遅れている。 ・灯台:誰も入らないはずの部屋に、木箱が並ぶ。 ・港の食堂「みなと屋」:島の噂はすべてここに集まる。 ■ 歴史 ・30年前:台風で連絡船が沈み、島民7人が亡くなる。 灯台の箱のしきたりは、この年から始まった。 ■ 組織と集団 ・漁協:島でいちばん力を持つ。観光開発に反対。 ・町役場:島を観光地にしたい。郵便局の統廃合を検討中。 ■ 物語の流れ 第1話:主人公が灯台の箱を見つける。 第4話:箱の手紙の一通が、主人公の母の筆跡だと分かる。 第8話:最後の手紙を、宛先の人に届ける。 ■ 未決事項 ・母がなぜ島にいたのか(第4話までに決める)
ルールが三つしかないことに注目してください。そのどれもが、主人公の行動を縛り、対立を生み、謎を運んでいます。物語に関わらない設定は、ここには書いていません。
シリーズの企画書と世界観メモの違い
連続ドラマの企画では、世界観をまとめた資料を、外部に見せる企画書としても使います。その場合は、プロデューサーや出資者が読んで作品の魅力が分かるよう、前提、主要人物、各話の流れ、シーズンの結末を中心に、10ページ前後に整えるのが一般的です。一方、書き手が自分のために持つ世界観メモは、未決事項や没にした案まで含めた、作業用の資料です。人に見せる資料と自分の資料を分けておくと、どちらも使いやすくなります。企画書の書き方は映画の企画書の書き方、連続ドラマの第1話は第1話の書き方で紹介しています。
世界観の資料を役立つものに保つコツ
- 物語に使う設定から書く。主人公の行動や対立に関わらない設定は、あとからでかまいません。
- ルールには代償と限界を付ける。できないことがあるから、人物は工夫し、選択を迫られます。
- 説明は本文に書かない。資料に書いたことの多くは、読者や観客に直接説明する必要がありません。人物の行動や小道具ににじませます。
- 書きながら更新する。本文で新しく決めたことは、その場で資料に書き足します。
- 表記をそろえる。地名や役職の呼び方を用語集で統一すると、複数の書き手がいても混乱しません。
世界観の作り方でよくある失敗
- 設定作りだけで満足して、本文が進まない。最初は1〜2ページで書きはじめ、必要になったら足しましょう。
- 冒頭で世界の説明を長々と書く。読者は説明より、人物が動く場面で世界を知りたいのです。
- ルールが都合よく変わる。ピンチを切り抜けるために新しいルールを足すと、読者の信頼を失います。
- どこかで見た世界になる。人気作品の設定を寄せ集めるより、自分の知っている場所や仕事、土地の習わしから考えると、独自の手触りが生まれます。
Scenaloomで世界観をまとめる
Scenaloomでは、プロジェクトのストーリーバイブルを「世界観」に項目としてまとめます。ログライン、中心テーマ、自分で追加した項目を書け、テンプレートから始めることもできます。小説プロジェクトのストーリーバイブルには、ジャンル、文体、あらすじ、世界観のほか、場所、集団、伝承と歴史、魔法や技術といった設定項目を登録できます。
ScenaloomのAIは答える前にこのストーリーバイブルを読むので、提案があなたの決めたルールから外れにくくなります。詳しくは世界観とナレッジをご覧ください。無料でプロジェクトを始める
よくある質問
世界観設定には何を書けばいいですか?
前提とトーン、世界のルール、場所、歴史、組織と集団、人物の関係、物語の流れ、用語集と未決事項の8つが基本です。すべてを埋める必要はなく、物語に関わるものから書いていきます。
ストーリーバイブルとシリーズの企画書の違いは何ですか?
ストーリーバイブルは書き手やスタッフが使う作業用の設定資料で、未決事項まで含みます。シリーズの企画書は、プロデューサーや出資者に作品の魅力を伝えるために、前提、主要人物、各話の流れ、シーズンの結末を中心にまとめた外向けの資料です。
世界観の資料はどのくらいの量にすればいいですか?
書きはじめは1〜2ページで十分です。連続ドラマや長編シリーズでは、書き進めるうちに10ページ以上になることもありますが、物語に使わない設定まで増やす必要はありません。
単発の映画や短編にも世界観の資料は必要ですか?
厚い資料は必要ありませんが、舞台のルール、主な場所、人物の関係を1枚にまとめておくと、矛盾を防げます。とくに現実と少し違うルールがある作品では、書いておくと役に立ちます。
世界観を作りすぎないためにはどうすればいいですか?
主人公が最初の場面で直面するルールと場所から決めはじめ、それ以外は物語が必要としたときに足していく方法がおすすめです。設定を作る時間と本文を書く時間を分けて、本文を優先しましょう。