
シーンの書き方の基本は、視点となる人物にはっきりした目的を持たせ、その前に障害を置き、状況が変わる「転換」で終えることです。できるだけ遅く場面に入り、転換が決まったらすぐに出る。対立は説明させずに、観客の目の前で起こします。
シーンは脚本の最小の単位です。長編映画の脚本は数十から百以上のシーンでできていて、どのシーンにも存在する理由が要ります。削っても物語が何も変わらないシーンは、たいてい削るべきシーンです。
脚本でいうシーンとは
脚本では、シーンは同じ場所、同じ時間で続いているひとまとまりの出来事です。日本の脚本では「○ 喫茶店・店内(夜)」のような柱で始まり、場所か時間が変わったら、新しい柱を立てて次のシーンに移ります。
ドラマとして見ると、シーンはそれ自体が小さな物語です。誰かが何かを求め、何かがそれに逆らい、終わるころには状況が変わっています。柱そのものの書き方は柱(シーン見出し)の解説にまとめました。このページでは、柱の下に何を書くかを扱います。
目的・対立・転換
うまくいくシーンには3つの部分があります。人物の目的、それを阻む対立、そして始まりと違う状態で終わる転換です。台詞を磨く前に、まずこの3つがそろっているかを確かめましょう。
- 目的:このシーンで視点人物は何を求めているか。具体的で、いますぐ手が届くものにします。鍵を手に入れる、白状させる、誰にも気づかれずに抜け出す、などです。
- 対立:何が、誰が邪魔をするか。反対の目的を持つ人物がいちばん強い障害になりますが、場所、時間の制限、人物自身の恐れも障害になります。
- 転換:終わりに状況はどう変わったか。安全から危険へ、信頼から疑いへ、希望から失望へと価値がひっくり返るか、新しい情報によって人物の次の行動が変わります。
遅く入って、早く出る
「遅く入って、早く出る」とは、対立が始まる直前の、できるだけ遅い瞬間からシーンを始め、転換が決まったらすぐに終えることです。現実の会話にはある到着、あいさつ、世間話、別れの言葉は、ドラマには要りません。
同じシーンの二通りの書き出しを比べてみましょう。ひとつ目は、玄関から始まります。
○ 中村自動車・作業場(昼) 開いたシャッターをノックする玲奈(32)。 父・修(64)が車のエンジンから顔を上げる。 玲奈「ただいま」 修「おう、玲奈か。入れよ。コーヒー飲むか」 玲奈「ううん、いい。あのね、ちょっと話があって」
ふたつ目は、ひとつ目が向かっていた言い争いの真ん中から始まります。
○ 中村自動車・作業場(昼) 玲奈(32)、銀行の封筒をエンジンの上に叩きつける。 玲奈「家、担保に入れたでしょ」 父・修(64)、レンチを回す手を止めない。 修「俺の家を、な」
あいさつを飛ばしても観客は何も失いません。代わりに、二行目からもう対立が始まっているシーンが手に入ります。
シーンの書き方(手順)
- シーンの役目を知る。物語の中でこのシーンが果たすことを一文で書きます。秘密が明かされる、決断する、関係が変わる、などです。
- 視点を決める。誰のシーンか。その人物の目的が、ほかのすべてを決めます。
- 圧力のかかる場所を選ぶ。混んだ定食屋での告白と、誰もいない車の中での告白では、まったく違う場面になります。目的を果たしにくくなる場所を選びましょう。
- 柱と最初のト書きを書く。読み手が場所と人物をつかめるよう、ト書きは3〜4行までにします。
- 遅く始めて、積み上げる。同じ攻め方を繰り返さず、やりとりのたびに圧力を上げるか、作戦を変えます。
- 転換を決める。変化は目に見える形にします。選択、発覚、行動です。
- すぐに出る。転換か、その一拍後で終えます。次のシーンにつながる映像や台詞で終われば理想的です。
シーンの書き方の例
3つの部分をすべて使った、書き下ろしのシーンです。目的は署名、障害は署名しない祖母、転換は孫も観客も予想していなかった事実です。
○ 老人ホーム「ひだまり」・面会室(昼) 作りかけのジグソーパズル。 富子(84)が空のピースをはめている。 孫の悠真(31)、ペンを挟んだ書類を テーブルの上で滑らせる。 悠真「お金のこと、僕が代わりにやるだけだから。ばあちゃんが面倒な思いしなくて済むように」 富子「請求書、好きなのよ。私宛ての郵便、あれくらいだもの」 悠真、ペンのキャップを外して差し出す。 富子は受け取らない。 富子「お母さんも同じ紙、送ってきたわよ。三月に」 悠真の手が止まる。 悠真「……え?」 富子、また空のピースをはめる。 富子「あれにも、判は押してないけどね」
悠真の目的は最初の台詞から明らかで、富子の抵抗ははぐらかしから事実の暴露へと強まり、転換(母親も同じものを狙っていた)が物語の向きを変えます。シーンは転換が決まった瞬間に終わります。富子が自分の疑いを一度も口で説明していないことにも注目してください。それをサブテキストが運んでいます。詳しくはセリフの書き方をご覧ください。
シーンの長さの目安
長編映画の脚本では、多くのシーンがハリウッド形式で1〜3ページ、つまり画面上でおよそ1〜3分に収まり、5ページを超えるものはごくわずかです。日本の200字詰め原稿用紙(ペラ)なら、ペラ1枚がおよそ1分の目安なので、1シーンはペラ1〜3枚ほどになることが多いでしょう。
長さはシーンの役目に従います。事実をひとつ明かすだけなら数行で足り、何度もひっくり返る交渉には4ページ必要なこともあります。長くなりすぎたら、同じ作戦を二度使っている箇所や、遅く入ったつもりで実は早く入っている書き出しを探しましょう。
シーンでよくある失敗
- 目的がない。人物がおしゃべりをして、観客の気持ちが離れていきます。
- 二つのシーンが同じ役目を果たしている。強いほうの場所と、よいほうの台詞を残して一つにまとめます。
- ト書きを書き込みすぎる。1段落は3〜4行までにし、読み手の想像力を信じます。
- まとめで終わる。人物にいま起きたことを説明させず、変化そのもので終えます。
- 柱を立てずに場所や時間を変える。時間が飛ぶなら新しい柱を立てるか、同じ場所なら「× × ×」で時間の経過を示します。
シーン、シークエンス、構成
シーンはいくつか集まってシークエンスになります。追跡、潜入、結婚式の一日のように、ひとつの小さな目的を共有するシーンのまとまりです。シークエンスが積み重なって幕になります。どうしてもうまくいかないシーンは、原因がその上流にあることもあります。大きな物語の中での役目があいまいなのです。台詞を書き直す前に、箱書きやプロットと照らし合わせてみてください。全体像は脚本の書き方で説明しています。
Scenaloomでシーンを書く
Scenaloomの脚本エディターでは、柱を書いてEnterを押すとそのままト書きに移ります。脚本の柱はすべて、シーンボードのカードとシーン一覧の行として表示されるので、シーンの並びをひと目で確かめ、並べ替えながら構成を考えられます。日本語の脚本にはアジア形式が使え、シーン番号と、そのシーンの登場人物の行が自動で入ります。
「確認したい書式」の一覧には、中身のない柱やセリフのない人物名など、書式の抜けが並び、それぞれの行へ移動できます。詳しくは脚本エディターの概要をご覧ください。無料で書きはじめる
よくある質問
シーンの3つの要素とは何ですか?
目的、対立、転換の3つです。視点人物がそのシーンで具体的な何かを求め、誰かや何かがそれを阻み、終わるころには状況が変わっています。どれかひとつが欠けると、シーンは平板に感じられます。
脚本のシーンはどのくらいの長さにすればいいですか?
多くのシーンは画面上で1〜3分ほど、ペラなら1〜3枚ほどに収まります。長さはシーンの役目で決まり、事実をひとつ明かすだけなら数行、何度も状況がひっくり返る場面ならもっと必要です。長すぎるときは、繰り返しているやりとりから削ります。
「遅く入って、早く出る」とはどういう意味ですか?
対立が始まる直前からシーンを始め、転換が決まったらすぐ終える、という脚本の心得です。あいさつ、到着、世間話、別れの言葉を削ることで、シーンが引き締まり、次のシーンへ勢いがつながります。
シーンはどう書き始めればいいですか?
まず柱で場所と時間を示し、続けて短いト書きで、どこに誰がいるかを読み手に伝えます。そのうえで、できるだけ対立に近いところから会話や行動を始めます。
シーンとシークエンスの違いは何ですか?
シーンは同じ場所・同じ時間で続く出来事で、柱ひとつごとに区切られます。シークエンスは、追跡や潜入のように、ひとつの小さな目的を共有するシーンのまとまりで、いくつもの場所にまたがることがあります。
場面の書き方のコツは何ですか?
場面の書き方のコツは、その場面で視点人物が何を求めているかを一つに決め、それを阻むものを置き、最後に状況を変えることです。あいさつや移動は省いて、対立の直前から始めましょう。気持ちは台詞で説明させず、行動や小道具で見せると、短い場面でも印象に残ります。
シーンと場面は同じ意味ですか?
ほぼ同じ意味で使われます。脚本の現場では柱で区切られる単位を「シーン」と呼び、番号で管理することが多いです。小説では「場面」という言葉のほうがよく使われます。