
脚本の人物紹介の書き方の基本は二つです。本文の前に人物表を置いて、名前、年齢、ひとことの説明を並べること。そして、本文で人物が初めて登場するト書きで、フルネームと年齢を書き、その人らしさが伝わる行動を一つ書くことです。例えば「吉田秀子(65)、チップを二度数えて、差額をポケットに入れる。」のように書きます。
人物の第一印象は、読む人の中であっという間に決まります。書式は簡単ですが、難しいのは、段落ひとつ分の説明を引き受けてくれる描写を一つ選ぶことです。このページでは、人物表の書き方、初登場のト書き、脇役や大勢の書き方、読む人に読み飛ばされる書き方を順に説明します。
人物表の書き方
人物表は、本文の前に置く登場人物の一覧です。読む人が最初に顔ぶれをつかめるうえ、制作に入れば香盤表やキャスティングの基礎資料にもなります。コンクールでも、表紙のあとに人物表を付けるよう求められることがよくあります。
- 主な人物から順に、フルネームと年齢を書きます。
- 名前のあとに、職業や立場、ほかの人物との関係をひとことで添えます。
- 説明は一行に収めます。性格や過去を長々と書くのは、人物表の役目ではありません。
- セリフのある脇役も載せます。名前のない役は「店員」「男A」のように書きます。
人物 吉田秀子(65) 港町食堂の女主人 吉田理沙(31) 秀子の娘。町の図書館の司書 中村蓮(17) 閉館間際に来る高校生 中村健二(44) 蓮の父。漁師 店員 客A・B
人物をつくり込む段階の設定(欲しいもの、弱点、秘密など)は、人物表ではなく別の資料にまとめておきます。項目の例はキャラクターシートのガイドにあります。
初登場の人物紹介の書き方
本文で人物が初めて画面に出るところでは、決まった形で紹介します。
- 初登場のト書きでは、フルネームと年齢を書きます:中村蓮(17)。年齢は(40代)(30前後)のような幅でもかまいません。配役の余地が残ります。
- 二度目からは、ト書きでもセリフでも、決めた呼び名(蓮)だけを使います。
- 同じト書きの中で、一、二文の描写を添えます。
○コインランドリー(夜) 一台だけ回っている洗濯機。 折りたたみ台に腰かけた長谷川紗季(40代)、図書館の本を読んでいる。 しおりがわりの返却期限票の日付は、半年前。
英語の脚本では初登場の名前を大文字にして新しい人物を目立たせますが、日本語には大文字がありません。そのぶん、フルネームと年齢が「ここで初めて出てきた人」の目印になります。名前と年齢がそろっていれば、制作に入ってからも、助監督や制作部がセリフのある役をすべて拾い出せます。
外見の羅列より、一つの行動
よい人物紹介は、外見の特徴を並べるのではなく、その人が何者かがわかる行動、持ち物、選択を一つ見せます。背の高さや髪の色からわかることはわずかですが、癖や矛盾からは、その人の考え方が見えてきます。同じ人物を、二通りに紹介してみます。
(例1) 村上浩二(50代)、背が高く、白髪まじりで、スーツ姿。 (例2) 村上浩二(50代)、破産手続きの説明会に入る前に、 車のボンネットの上でネクタイにアイロンをかけている。
例1はだれにでも当てはまります。例2からは、何もかもが崩れていくときでさえ体裁を気にする人だとわかります。しかも浩二は何かをしているので、場面が止まらずに進みます。
人物が伝わる描写の探し方
- 矛盾:自分の血を見ると倒れる看護師。ポケット辞書を持ち歩く用心棒。
- 過去を背負った持ち物:テープで留めたひび割れのスマホ。鎖に通した結婚指輪。
- 小さな選択:最後の一脚の椅子にだれが座るか。電話をわざと鳴らしっぱなしにするのはだれか。
- まわりの反応:その人が入ってきた瞬間に部屋が静まる。本人を描写するより多くを語ります。
外見を書くのはどんなときか
外見は、物語に関わるときだけ書きます。並外れた背の高さが筋に関わるなら、傷あとが手がかりになるなら、書きましょう。そうでなければ、外見は書かずにおくほうが、合う俳優の幅が広がります。体型や美しさも同じで、「細身の美人、二十代」のような書き方は、人物よりも書き手の思い込みを伝えてしまいます。
脇役と大勢の人物
人物紹介の書き方は脇役でも同じで、セリフのある人物は初登場で紹介しますが、描写は短くてかまいません。役割、年齢、ひとことで十分です:料金所の係員(70代)、イヤホンをしたまま手を振って通す。セリフも目立つ動きもない人は、通勤客、ウェイター、自転車の子どもたちのように、情景の一部として書けば足ります。
大勢が出るときは、まずひとまとまりとして紹介し、大事な人だけを取り出します。一行に六人の名前と年齢を並べると、場面が始まる前に読む人が疲れてしまいます。
おそろいのジャージのサイクリストたち(20代)が、地図を囲んで言い合っている。 いちばん小柄な佐藤葵(19)だけが、本物の道路標識を見ている。
人物紹介でよくある失敗
- 何もしないうちに、人物の経歴をト書きで一段落書いてしまう。カメラには撮れません。
- 「父を許したことがない」のような、映らない心の中を書く。そこから生まれる行動を見せます。
- 途中で呼び名が変わる。あるシーンでは「中村」、次のシーンでは「健二」。セリフの人物名は一つに決めて通します。
- 人物表と本文で、名前の表記や年齢が食い違う。
紹介の続きを引き受けるのはセリフです。その人物が最初に口にする言葉は、脚本のほかのだれとも違って聞こえるはずです。声の書き分けはセリフの書き方で、行動だけで人物を紹介する例はシナリオ・ミュージアムの「The Keeper」で読めます。
Scenaloomで書く
Scenaloomは、セリフの人物名からキャラクターのページを自動で作ります。[確認したい書式]では、同じ人物の名前が脚本の別の箇所で違う表記になっているとお知らせするので、決めた呼び名を最後まで通せます。アジア形式では、シーンごとにそのシーンの登場人物を並べた行が入るので、だれがどこに出ているかもひと目でわかります。脚本を書きはじめる
名前が決まらないときは、無料の名前ジェネレーターで候補を探せます。
よくある質問
脚本の人物紹介の書き方を教えてください
本文の前の人物表に、名前、年齢、ひとことの説明を並べます。本文では、人物が初めて出るト書きでフルネームと年齢を書き、その人らしさがわかる行動を一つ添えます。二度目からは決めた呼び名だけで書きます。
人物表には何を書けばいいですか?
主な人物から順に、フルネーム、年齢、職業や立場、ほかの人物との関係を一行ずつ書きます。セリフのある脇役も載せ、名前のない役は「店員」「男A」のように書きます。性格や過去の詳しい設定は、人物表ではなく別の資料にまとめます。
登場人物の年齢は必ず書きますか?
初登場のト書きと人物表には書くのが一般的です。(17)のような数字でも、(40代)のような幅でもかまいません。名前のない声だけの役など、年齢が関係しない人物は省いても問題ありません。
人物の外見はどこまで書けばいいですか?
物語に関わるときだけ書きます。外見の特徴を並べても人物はあまり伝わらず、合う俳優の幅も狭まります。それよりも、その人が何者かがわかる行動や持ち物を一つ書くほうが効果的です。
セリフのないエキストラも紹介しますか?
セリフも目立つ動きもない人は、「通勤客」「ウェイター」のように情景の一部として書けば十分です。セリフがあるなら、一度きりの登場でも人物表に載せ、初登場のト書きで役割と年齢を書きます。